Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    hyogaakira

    自作ゲームの落書きや過去絵をポイポイしてます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 87

    hyogaakira

    ☆quiet follow

    ※ヘブロワ続編クリア後推奨
    サークル垢でアップした絵に触発されて書いた甘々SSです。

    ##ヘブンズ・ロワイヤル

    Melty night and cat鏡に映る自分を見て、ため息をついた。
    左肩と胸の刺青も、昔と何も変わっていない。
    こめかみに銃口をあてて脳天を貫いたというのに、死ぬ前と同じ姿が映っている。
    今の風呂も、食事も睡眠も、生前と大差ない生活だ。
    別の世界で人生の続きがあるなんて、本当に変な話だと思う。
    現界の人間にこれを予想できた人間がどれだけいるだろう。
    そんなことを考えながら、備え付けのタオルで髪を拭いて着替える。
    だが、明らかに足りない。
    傍にかけておいたコートがなくなっている。
    「あいつか……」
    犯人は一人しかいないだろう。
    それ以外はありえない。

    今まで様々なホテルに泊まってきたが、ここは綺麗なほうだ。
    彼女は「あなたと一緒にいられるなら狭くてもいい」と言っていたが、今日は広めの部屋を取った。
    旅を続ける中で、様々な町と人間に出会ってきた。
    この二度目の人生で、旅を選んだのも自分だ。
    それでも一番落ち着くのが、夜に彼女と過ごす時間というのは──いささか矛盾しているかもしれない。

    バスルームを出て、ベッドのほうを見る。
    ベッドの上に、人のコートを着て喜々としている背中が見える。
    当然袖も余っており、立ち上がったら裾を引きずりそうだ。
    しかも鼻歌まで歌っている。
    いつ話しかけようか、少し迷ってしまった。
    だが、たとえ見ていて飽きない光景でも、これはいつか終わらせなくてはならない。
    「おい、ルーシー」
    「わああ!?」
    声をかけると、彼女は柄にもない悲鳴をあげた。
    誰かに見られたら間違いなく誤解される光景だ。
    「いつからいたの!?」
    「気づかなかったのか? さっきから見ていた」
    「うそでしょう……!」
    彼女は振り返ると、顔を真っ赤にして目を逸らした。
    「ちょ、ちょっと! 何で上着てないのよ!」
    「お前が着ているからだろう」
    声にならない叫び声と共に、彼女はこちらに背を向ける。
    俺のコートを着たまま、膝を抱えて丸まってしまった。
    「何でもう上がってくるのよ……もっと長く入ってなさいよ……」
    「これでもゆっくりしていたんだが」
    フードを引っ張っても、ろくにこちらを見ようとしない。
    裾からすらっとした白い足が伸びていて、無理やり剥いだら蹴りが飛んできそうだ。
    「返してくれ。それがないと外出できない」
    仕方なく頼んでみる。
    勝手に奪った相手に頼むのもおかしいと思う。
    だが、この女が変なことをしてきた時は、下手に動くよりそうするほうがいい。
    「そうじゃなくて、恥ずかしいのよ……下にネグリジェ着てないの……」
    「初めてじゃないだろう。前に包帯を巻いた時は……」
    「そういう問題じゃない!」
    「分かった。後ろを見ていてやるから、早く返せ」
    彼女が枕に手を伸ばそうとしたので、肩をすくめて壁を向く。
    枕は飛んでこなかった。
    「じゃあ……このホテルの高いお肉奢って」
    「どうして人の服を奪ったほうが奢られるんだ」
    「まだ、返したくないから」
    「それがそんなに気に入ったのか? お前には大きいだろう」
    「き、着てみたくなっただけよ……悪い?」
    余った袖で顔を隠しながら、いじらしく見つめられる。
    いつから、誘惑する術まで覚えたのか。
    「……全く」
    踵を返して、彼女の頭を引き寄せる。
    蝶々の飾りが揺れる耳元に、ついばむように口づけを落とす。
    「ふぁ……まって、くすぐったい……」
    彼女の唇から思わず声がこぼれる。
    口元を抑えようとする手を握ると、耳まで赤くなった。
    少しでも慣れないことをすると、いつも彼女は力が抜けてしまう。
    慣れないことをしているのは、俺も同じだ。
    悪人に堕ちてから、こんなふうに誰かを愛したことなんてなかった。
    ずっと触れていたいと思うのは、何度死んでも、きっと彼女だけだろう。
    座り込む前に肩を抱いて、首筋に少しだけ舌で触れた。
    彼女の肩からコートがするりと落ちた。
    それを彼女が気づく前に回収して、そっと離れた。
    「これでよし、と」
    「え、ちょっと……」
    コートを元の場所に戻すと同時に、腰に細い腕が巻き付く。
    温かい熱と、柔らかい感触が背中から伝わってくる。
    「待ってよ……まだ口にしてもらってない……」
    「なら奢るのはなしだ」
    また、くだらない意地を張っている自分に呆れる。
    奢るとか利害関係なんて、本当は必要ない。
    この時間を、何よりも求めているのは自分自身だというのに。
    「……わかったわよ……だから……」
    巻き付いた腕を解いて、やめないで、と言いかけた唇を塞いだ。
    少しだけ離して、抱きしめながらもう一度重ね合わせる。
    初めてした時程ではないが、鼓動から彼女の緊張が伝わってきた。
    「先に、謝っておく。しばらく、休ませてやれそうにない」
    「じゃあ、先に伝えておくわ。……大好き」
    「……ああ」
    彼女をそっと押し倒して、貪るように唇を求めた。
    この時間だけは、何も疑えなくしてくれる。
    何もかも、忘れていられる。
    心を凍り付かせる過去も、暖かかったはずの思い出も、全て──。
    一度枷を外したら、失くしたはずの感情が溢れてきて、自分の理性を埋め尽くしていく。
    何も感じられなくなったと思っていた。
    それでも、彼女と触れ合っている時だけは、幸せというものを感じられる。
    これからもずっと、変わらず渇望していくのだろう。
    誰かに心を許し、心から愛されることを。

    次の日、羽織ったコートは、彼女の香りがした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator