たかまつSS 「ひとりごはん」 高瀬が入院した。バス事故にあったらしい。幸い数週間で退院できると言われたが、職場の上司に伝えたら職場から放り出された。
「旦那の一大事に仕事してる場合か早く行ってこい」
……まだ旦那じゃないけど。いやまあ……もうすぐそうなるのでそこはいいんだけど。
ともかく、私は高瀬のいる病院へ向かうことになった。
「高瀬」
「あ、茉莉ちゃん」
病室へ行けば、高瀬が困ったようにへらりと笑った。こんなことになるなんてね、といつもより掠れた声で言う高瀬は、呼吸器を少しやられているようだった。
「いつも忙しいし、たまにはしっかり休んでもいいんじゃないか」
「そうだけど。ご飯作れないから…あ、でも暫くは作り置きでなんとか…」
「私だって自分のことくらいできるって。そりゃまあ高瀬より上手にって訳にはいかないけど」
というより、ここまで来て私の飯の心配をしてる場合か入院レベルの怪我したのは高瀬だぞと言う言葉は寸前で飲み込んだ。直感だけど、そんなこと言ったらめちゃくちゃ話が長くなる気がしたので。
「じゃ、また来るから。洗濯物回収しに」
「うん、ありがとうね」
それだけ言って、帰ることにした。
私は基本的に大雑把だが、一応一通りの家事はこなせる。食事の時はここ数年高瀬の家に上がり込んでいたとはいえ、一人暮らしをしていたのだ。最低限どうにかはなるのである。勿論、料理だって手の込んだものは作れないが、どうとでもなるし、実際なったのだが。
「……あんまり美味しくない」
高瀬より美味しく作るとか、そんなことは考えていない。それでもレシピ通り、特に変な部分もなく作ったはずなのに。
なんというか、味気がない。
「まあ、そんなもんだよね」
最近舌が肥えたせいかもしれないし。食べられない訳じゃないし。
そんな数週間を過ごし、高瀬は無事退院することになった。
さすがに私も退院したての高瀬に料理を作らせるほど鬼じゃない。
「これ、茉莉ちゃんが作ってくれたの…」
驚く高瀬に早口で告げる。
「不味くはない、ってくらいだけど食べられない訳じゃないから」
暫くは我慢してくれよな、と言うと高瀬は首を横にぶんぶん振って
「そんな事ない僕すごい嬉しいよありがとう茉莉ちゃん」
と満面の笑みを浮かべた。
「お、おう…」
「いただきます」
躊躇いなく全ての料理に箸を付け、美味しい、と笑顔を浮かべる高瀬に大袈裟だな…と思いながら私も一口。
「……美味しい」
あれ、おかしいな。作り方変えてないのに。
そう思いながらうんうん、と頷く高瀬の顔を見て、料理の皿を見て。
……なるほどな
やっぱり私には、この調味料が一番大事ってことみたいだ。