この歳になって、ぼんやりと思い出す風景がある。
背負った名前と同じ花が沢山咲いている丘で、まだ幼かった自分とどこかつまらなさそうに花を手折る4本腕。
『お兄さんはカミサマなの?』
確か、あの時の俺はそう問うたのだったか。
『俺がそんなチンケなものに見えるか?』
大きな4本腕の男は、フン、と鼻を鳴らして。
『つまらんな。この世は実につまらん。』
パキリ、パキリと手折られる大輪の向日葵。
掌で遊ばせていた向日葵をぐしゃりと握りつぶし、4本腕の男はにたりと笑んでいた。
腕と同じ数の目を細め、俺を見て。
『つまらんなぁ、この世界は。そうは思わんか、なぁ、日車寛見』
名乗った覚えも無いのに、その4本腕は1字1句違えることなく俺の名を呼んだ。
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