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    2020leapDAY

    @2020leapDAY

    おこじょのポイピク。父水以外のものとか、おまけ等の何かしらパス付けたいものがたまに上がります。父水じゃないものが偶に混じっているので固定の方はお気をつけ下さい。

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    2020leapDAY

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    メモの供養。父の日に書いていた親子の話。いたって平和

    父の日三歩進んで二歩戻り、十歩進んでは九歩戻る。このままではいけないと、意を決して五十歩進み。百歩戻ろうとして、何をしているのかと立ち止まり。
     そういう親子関係だった。しかもぐるぐるしてるのは親ばかりで、気がつけば子は育つ。そういうものさ、と。在りし日の母は言っていたが、それを成程と、分かったフリをして飲み込むには、水木はまだ若かったし、幼かった。
     幼い親だったと思う。
     若いと呼ぶにも未熟で、半端で。いつも目玉が居なければ立ち行かなかった。親子にとって、確かに『親』は必要だっただろうが、それは果たして水木じゃなくても良かったのだと、今でも思う。
     親子が、今日この家を出て行くと話を聞いた今でさえ。
    「そうか」
    「……はい」
    「ん」
     言葉が出なくて煙草を一口。こうして何度、煙と共に声にできなかった何かを飲み込んだだろう。
     言葉は、苦手だ。
     何をどう言っても、嘘になる気がした。嘘とは言わないまでも。お為ごかし、と。誰かに言われる気がする。
    「元気でやんなさい」
    「……はい」
    「いつだって、帰って来て良いから」
    「……はい」
     何をどう言っても、嘘にしかならない気がした。
     親子は多分、帰って来ない。そんな分かりきった事を、ぐるぐるしているのはやはり水木だけだ。
     ああ、やはり。幼いのは、自分だけ。
     目玉とは大違いだ。かの目玉は、大事な事は二人でと、要らぬ気を利かせて、今この場には居ないけど。
    「……では」
    「ん」
    「月が沈んだら出発します」
    「……ん」
     煙の様な輪郭の無い静寂が、部屋の中にぽっかりと浮かんでいる。先にそれを割ったのも、子の方だった。
    「あの、」
    「ん」
     自分よりずっと大人びた幼子が、少し子供じみた表情を伏せながらかりりと頬を掻いた。小さい頃は幾度も見ていたその表情。これは、子が水木にお願いをする時のクセだった。遠慮しがちの子の願いは、いつもいつも、とてもささやかなものだったけど。
     もじもじと少し言い出しづらそうに、身の置きどころが無さそうに、されどもやはり嬉しそうに。子は水木にやはりささやかな願いを切り出す。

    「お願いが、あって……」

         *
    「あんときのありゃぁお前の入れ知恵か」
    「ワシは何にも言うておらんよ、疑り深い」
     月夜にぷかりと煙が浮かぶ。男一人と目玉が一つ。
     親子が出て行ってはや数年。案の定、鬼太郎はこの間一度も帰ってこなかったが、意外にも目玉は何度か良い酒が手に入ったと顔を見せに来ていた。
     話を聞く限り、元気にやっている様だ。亭主元気で留守がいいとは言うが、子に関してはどうなのだろう。
     別れ際の子の声は、まだ声変わりもしていない、あどけないものだったが、今でもそうなのだろうか。聞きたい、と思う反面、あのままの記憶を仕舞って置きたい気持ちもどこかある。
    「お前は要らん気ばかり回すからな」
    「おや、要らんとは。気遣いせんなら、酒は要らんかったかのう」
    「馬鹿、そう言うのは気遣いじゃなくて手土産ってんだよ。煙草の駄賃だろ」
    「よう言う」
     煙草を吹かしながら目玉が笑うと、ぷわりと変わった形の煙が浮いた。妖怪め、と嘯きながら、水木も笑う。子育てが終わった友人同士でこんな風に飲むのは、決して悪くない、水木の楽しみの一つだ。

     今日は親子が出て行ったのと同じ、六月の第二日曜日。
     子はあの日、記念日なのでと言って、何を頼むのかと思えば、煙草を吸ってみたいと、一口煙草をねだった。断る理由はひとつも無く、一口で盛大に噎せる様を、子と水木の二人で笑った。
     笑って、もう一つ、我儘を聞いてもらえるならと切り出した一言。

     その一言を、鼓膜の奥底、頭の中の蝸牛の尻尾に、大事に大事に抱えている。

     出会いと別れに、と目玉の友人と小さな盃を交わした。この先鬼太郎が帰って来ようと来なかろうと、水木にとってもこの日は記念日だ。
     幼くて、拙くて、それでも必死に過ごした日々が、たった一言で救われてしまったあの日。

     思い出すのは、恥ずかしそうにはにかみながら、お前たまにはそんな顔見せろよと言いたくなるほど甘えた表情で、あの日幼子が口にしたちいさな願い。

    『おとうさんと、呼んでも良いですか』
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