とある保安部員の業務の始まりは、心の中で存在しない神に祈りを捧げることから始まる。
彼はアマテラス社保安部のトップ、部長であるヨミー=ヘルスマイル直属の部下である。ゆえに彼に与えられている仕事は、他の部員たちのようなカナイ区で起きる事件の捜査などではなく、ヨミーの後ろに付き従ってその手足となり、万が一ヨミーに危険が迫った時には自らが盾となってその身を守ることだ。
そんな彼が大して信仰もしていない神に向かって捧げているのは、彼の前を歩く上司のヨミーが〝とある男〟と顔を合わせませんように、という傍から見ればとても小さな、聞けば首を傾げるような、しかし彼にとっては非常に切実な祈りであった。
〝とある男〟とは、その名をリアム=カルヴァリオという。
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