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    マッド×ヨミー冒頭(予定)
    モブ保安部員がちょっと語るだけ

     とある保安部員の業務の始まりは、心の中で存在しない神に祈りを捧げることから始まる。
     彼はアマテラス社保安部のトップ、部長であるヨミー=ヘルスマイル直属の部下である。ゆえに彼に与えられている仕事は、他の部員たちのようなカナイ区で起きる事件の捜査などではなく、ヨミーの後ろに付き従ってその手足となり、万が一ヨミーに危険が迫った時には自らが盾となってその身を守ることだ。
     そんな彼が大して信仰もしていない神に向かって捧げているのは、彼の前を歩く上司のヨミーが〝とある男〟と顔を合わせませんように、という傍から見ればとても小さな、聞けば首を傾げるような、しかし彼にとっては非常に切実な祈りであった。

     〝とある男〟とは、その名をリアム=カルヴァリオという。
     アマテラス社の研究員の一人で、研究主任のウエスカ博士にも並ぶ才を持つとされる人物だが、性格は偏屈頑固な博士とは異なり非常に温厚で朗らか。誰に対しても気さくに接するリアムは研究員のみならず、他部署の社員からも慕われるほどの人気者であった。
     この保安部員も、自身がヨミー直属の部下でさえなければ、神に祈らねばならないほどにリアムを忌避することはなかっただろう。前述の通りリアムは評判のいい人物なのだ。保安部員の彼もそれは分かっているし、個人的にリアムのことが嫌いなわけではない。
     では何が問題なのか。何を隠そうリアム=カルヴァリオという男は、傍若無人が服を着て歩いている──なんて本人に聞かれたら処刑は免れないが──と言っても過言ではないあの保安部長、ヨミー=ヘルスマイルに懸想をしているのである。
     整ったその顔が好きで好きで堪らないと公言し、何かとヨミーを構い倒しては鬱陶しがられるその様は、保安部員の彼がアマテラス社に入社した四年前には既に社内の日常風景と化していた。彼もヨミーに指名されるまでは「ああ、あの二人またやってるよ」なんて呑気に思っていたくらいで。
     だが日常風景とは言っても、何も毎日やっているわけではなかった。保安部に仕事があるようにリアムにも研究員としての仕事があるし、そんな男のおもな活動拠点は地下の研究フロアだ。研究が立て込んでいれば上がってくることなどないし、ヨミーと会うこともない。だが会ってしまえば最後、何を考えてそうなるのかは定かではないが、一日中ヨミーの機嫌が最高に良くなることが多いのだ。
     当然ながらそうでないこともあるし、そんな日は理不尽な叱咤を受けつつ保安部員もほっと胸を撫で下ろせるのだが。

     上司の機嫌がいいのは良いことじゃないのか、だと?
     馬鹿なことを言うな、と彼は頭の中でそう吐き捨てる。別の誰か──たとえば保安部副部長のスワロや捜査課長のセスであったり──が上司であるならそれは正論だろう。だがしかしヨミーに限って言えば、それは真逆である。その背を追わねばならない保安部員にとっては実に最悪の事態であるに他ならなかった。
     彼の上司、ヨミーは自他ともに認める拷問マニアである。お手製の器具をいくつも所持しており、それらを使って他者をいたぶり苦しめて楽しむ鬼のような男なのだ。
     そんなヨミーの機嫌がいい日とは、つまり彼の趣味でもある拷問がより過激になる日を指す。拷問されるのは保安部が捕らえた犯罪者たちではある。だがいくら罪人といえども彼らが不必要に痛めつけられ、その度に断末魔のような悲鳴をあげひたすらに助けを乞い嘆く様を見せつけられるのは、気分のいいものではなかった。彼の感性は保安部に身を置きながらも正常だったのだ。けれどもヨミーに選ばれてしまった以上は見なければならない、聞かねばならない。何故ならそれも、彼の仕事の一部であったから。
     だからこそ、保安部員は祈るのだ。

     どうか、どうかどうか頼むから。
     来てくれるなよリアム=カルヴァリオ、と。





     だがまぁ、しかしながら、である。

    「やぁ、おはようヨミー君。朝から随分と忙しそうだねぇ」

     保安部員の祈りを、いもしない神が聞き入れてくれるはずなどなく。絶望に沈む彼の心とは裏腹に、歓喜に弾んだ声が上司の名を呼ぶのが聞こえて、彼はガスマスクの下でそっと目を瞑った。
     開けてたら、たぶん出る。涙が。
     決して態度には出さぬように、どうにかこうにか心の中で声にならない叫びをあげるだけに留めることに成功した彼が、その日もやはり地獄を見る羽目になったことは言うまでもない。
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