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    did_97

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    エボマサくんとセボさんの話

    【マサセイ】感情の迷路 セイボリーは、誰かから純粋な愛を向けられることを極端に恐れている。彼の道場門下生時代がどうだったのかマスタードに聞くと、そんな答えが返ってきた。
     ガラルチャンピオンとエスパージムリーダーとして出会い、彼を害しようとする輩から守って以降、マサルの心はセイボリーに囚われている。特に野暮用もないのにジムを訪れては彼と交流を深め、勇気を振り絞って告白もした。しかしセイボリーは困ったように笑って、少し考える時間をくれと返すのみだった。
     拒絶されたのではないが、受け入れられたわけでもない。告白前までは友人のように話してくれていたのに、妙に態度が余所余所しくなり、ビジネスライクの域を出なくなってしまっている。
     何故、好意を伝えてこんなやり切れない想いを抱えこまねばならないのか。蓄積した憤りが先行して、彼の心の機微を度外視してしていた。その結果が、今だ。つい数時間前のことを思い出しては頭痛に苛まれ、夕食をとることすらままならない。
     誰かに喋ってしまいたいが、自分やセイボリーをよく知る者でないと迷惑にしかならない。スマホロトムの連絡先を眺めていると、マスタードの名前が目に付き、一切合切を打ち明けたのだ。
     彼は夜中に電話をかけたにも関わらず嫌な声一つ出さず、親身になってマサルの苦悩を聞いてくれた。一度道場の門下生になった者は皆家族だという信条ゆえだろう。既に卒業したにも関わらず、まるで実の父親のように接するので最初は躊躇っていたマサルも、いつの間にか全てを話していた。
     今日の夕方、マサルはシュートスタジアムを出てすぐにエスパージムがある街へ向かった。このまま膠着状態でいるのは良くない。彼とちゃんと向き合って話をせねば。SNSのメッセージで仕事帰りに行く旨を伝えると、一時間ほどして了承の返事がきた。
     小ぢんまりとしたジムスタジアムは、黄昏時の空の下で静かに佇んでいる。ジムトレーナーや運営スタッフは皆帰宅したらしい。正面出入口が施錠されているため、マサルは裏の関係者通用口に行き、ドアノブを捻る。鍵はセイボリーが開けておいてくれたのだろう。最低限の照明しかついていない、薄暗い廊下がマサルの不安を煽る。
     ジムリーダーの控室で待っていたセイボリーは予想に反して、ごく普通にマサルを招き入れた。しかし敢えてそう振る舞おうとしているのが隠しきれていない。心から笑んでいない顔、演技がかった喋り方、大仰な身振り手振り。今思えば、マサルが本題を切り出しやすいようにと彼なりに気遣ってくれたのかもしれない。
     だがその態度に感情を逆撫でされたマサルは、出されたエネココアに手をつけず、唐突に立ち上がる。そしてテーブルを挟んで向かい合わせに座ったセイボリーに近付き、上から距離を詰めた。
    「ま、マサル……?一体何を……」
     制止しようと突き出された両腕の手首を掴む。もう引き返すことは出来ない。眼下で仄かに色づいた唇が小さく震えている。それに導かれたマサルは押し付けるように、強引に接吻をしてしまった。
     衝動的な行為だったために、感触も味もろくに覚えていない。唯一脳裏に焼き付いているのは、恐怖と怒りに潤んだ淡青色の瞳と、酷く歪んだ柳眉だった。自分は本気で彼を想っている。それを伝えたいだけだったのに。
    「ゴー、ホーム……お帰りくださいな」
     俯いたまま小さく零す彼にかける言葉が見つからず、マサルはエスパージムを後にする。せめて元の友人関係に戻れればと、多くを望まず行ったはずなのに、余計に悪化させてしまったのだ。
    「師匠、オレ……大変な間違いをしてしまったみたいです」
     セイボリーのことをよく知っておくべきだった。愛しいはずの彼を傷付けて、あんな表情をさせて。目からぼろぼろと涙が流れて止まらない。一刻も早く詫びるべきなのに、踏み出せず怯懦している自分自身も許せない。
    『マサルちん……間違いはね、誰もがするものなのよん』
     それこそセイボリーが門下生だった頃は、マサルとは比べ物にならない過ちを重ねてきた。しかしその度に深く後悔し、迷惑をかけてしまった人やポケモンに誠心誠意謝罪をしていた。
     今でこそ紳士的なエスパージムリーダーを務めているが、門下生時代は激情に任せて暴走することも多々あった。彼の全方位に向けた棘が削れて丸くなるまで、長い時間がかかったという。マスタードはゆっくりと、絵本を読み聞かせるようにセイボリーの過去を語った。
    『きっとセイボリちんも迷っているんだと思うよ。マサルちんの愛に、どう応えていいのか分からなくて……』
    「オレは、一体どうすれば……」
    『ぜーんぜん、難しく考えることはないよ。マサルちんがなんでセイボリちんを好きになったのか……自分の気持ちと素直に向き合ってみればいいだけだからねー』
     相変わらずヒントは渡しても、直接的な答えは言わない。マサル自身が気づくのを期待してくれている。
     マサルはマスタードに礼を告げて、電話を切る。セイボリーに恋してると気づいて以降、毎日が高揚感に満たされていた。彼といられる時が、電話越しに声を聞く時が、たとえほんの数分でも嬉しかった。そしていつしか、彼を守りたい、幸せにしたいと思うようになっていた。
     多分セイボリーが確認するのは明日になるだろうが。マサルはSNSアプリを開き、謝罪ともう一度ちゃんと話したいというメッセージを送信する。数秒も経たない内に既読がついて電話が鳴り、マサルは思わずベッドの上で小さく飛び上がってしまった。
    『すみません、マサル。ワタクシの方こそ気が動転していたようで……』
    「ううん……オレが自分の都合ばっかり優先して、セイボリーを傷つけちゃって……本当にごめんなさい」
     セイボリーの声色はあの時のように怒気を含んでおらず、穏やかだった。こんな時間にすぐ反応が返ってきたということは、マスタードの読み通り、彼もまんじりとしていなかったようだ。
    『では、明日の夕刻……エネココアを用意してお待ちしていますので』
    「うん。……ありがとう」
     我ながら単純だ。セイボリーへの狂おしい感情に振り回されて憔悴していたのに、当の彼が声を聞かせてくれるだけで苦悩が一気に吹き飛んだような心地になる。
     明日は今日飲めなかったエネココアを飲み、彼と本音を交わし合おう。そしてもう二度と、悲痛な表情はさせない。セイボリーと約束を取り付けたマサルは、胸の裡で静かに決意を固めた。
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