バカばっか「猿川の嫁、また来てんじゃん」
顔も名前もぱっとしないクラスメートが、眠ろうと机に突っ伏した矢先に頭を小突いた。別段痛くはないが、腹が立つ。ふざけんな。そう拳を振り上げるより先に、さっきまで教室の入り口にいたはずの依央利が間へと割り込んだ。
「さーるちゃん、一週間も無断欠席してどこ行ってたの?」
やっぱ嫁じゃねえか。見せつけんなよなー。途端にからかいの声がどっと増えた。
「うっせえ!」
見物客を散らすように派手に机を蹴って猿川は依央利の腕を引っ張る。俺はともかく、いおは見世物じゃねえ。知らず舌打ちが漏れた。
「あたた、痛いよ猿ちゃん」
後ろから声が上がっても知ったことではなかった。構わずそのままずんずんと教室を抜けて、人が行き交う廊下を抜ける。屋上へと続く階段を昇る頃にはチャイムが鳴っていた。どうせ次は自習の時間だ。依央利はともかく、猿川が教室にいようがいまいが、まるで関係がなかった。勢いよくドアノブを回してドアを蹴る。ガコンと、けたたましい音が鳴り響いた。
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