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    めのう

    JB ししさめ

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    めのう

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    猫の日のししさめ 昼の部

    ねこのひなので 午前中は仕事をしなければいけないからと、別室に放っておいたのは確かに獅子神だった。思いがけず午後もパソコンに貼り付かなくてはいけなくなってしまったのも、まあ悪かった。
    それにしてもこれはないだろ、頭の中でそう言って、獅子神は天を仰いだ。


     昼メシを食いながら、午後も仕事になったと告げた時、村雨の眼鏡のブリッジのあたりに、薄く皺が寄ったのを、獅子神は見逃さなかった。あー、まずい。滅多にない休日、自宅に来た恋人をほったらかしにするなど、全くもってよろしくない。だが、そのかすかな眉間の皺は2秒ほどで消えた。
    「そうか、残念だな」
     村雨がテーブルに目を落としながら言う。
    「本当に悪い、埋め合わせするから」
     手のひらを顔の前で合わせて謝罪する。
    「いや、別にいい」
     村雨が切り分けた肉を目の前に持ち上げながら言った。


     13時、仕事部屋に戻った。こうなればできるだけ早くここから出よう。そう決意して集中していると、引き戸が音もなく動いた。顔を上げると、無表情の村雨。
    「どうかした?」
     村雨は問いかけに答えずに、滑るように部屋に入ってきた。
     この部屋にはとくに機密にあたるようなものもないので、用があれば入室してほしいと伝えてあった。たから特に問題があるわけではない、ないのだが。
     獅子神のチェアのすぐそばまできた村雨は、ぺたりと床に座り込んだ。それからちょうどいい高さにある獅子神の足に、頭をもたれて寄りかかる。その体制で、持参した本を読み始めた。
    「その体制、つらくねえか?」
     そんなふうにされて、内心とても嬉しい。もたれかかった頭をそっと撫でる。返事はなかったが、そのまま動かないので大丈夫なのだろう。ますます早く切り上げなければ、と思い直すと、獅子神は画面に集中した。
     おそらく30分ほど経った頃、足下の村雨が動いた。チェアを獅子神ごと後ろに押して、椅子の上によじ登ってきたのだ。
     「ちょ、ちょっと!」
     いくら村雨が細身といっても、成人男性がふたりで乗ったら椅子の耐荷重を超える。そもそもそんなに大きな椅子ではないので、大人が膝に子供を乗せる様な状態にしかならない。村雨の後頭部で画面は見えないし、マウスも握れない。
     村雨はずっと黙っている。やっぱり怒っているのだろう。
    「村雨、すまん、すぐに終わらせるから、あと少しだけ待っててくれ!な?」
     背後から語りかけると、村雨は顔だけで振り返った。それからひとこと

    にゃあ

    と言って、また前を向いてしまった。
    これは、話を聞く気がない、と言うことだ。

    …思ったより怒ってたな…
    そう思いながら、邪魔な村雨の頭を避けながら画面を見る。椅子がやや不穏な音を立てている。手を必死で伸ばしてマウスを掴むと、獅子神は可及的速やかに仕事を終わらせた。椅子はなんとか耐えてくれた。しかしこのでかい猫は、自分で歩いて出て行くつもりはなさそうだった。
    「ほら、もう終わったから…」
     促すように背中を押しても動かない。本に目を落として、返事もない。
     くそ、猫が医学書を読むか?
     仕方がないので抱え上げる。立ち上がるまでとてつもなくつらかった。
     抱えられた村雨は両手を獅子神の首に回すと、口の両端を上げる。獅子神の肩に自分の顔を擦り付けるように甘えると、獅子神の耳元に唇を押し付けて、

    にゃあ

    と満足そうに一声鳴いた。


    もちろん、獅子神は寝室に直行した。


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