言葉足らずは身を女でもムラムラすることってあるんだ。
こんなの男の生理現象だとずっと思っていた。身体中が興奮で燻っている。
リヴァイと会える時には毎日セックスするのに、忙しい時期になるとめっきり会えなくなってしまった。ご無沙汰で最後に寝てから、もう一ヶ月は軽く経つ。
人肌が恋しい。男なら誰でも良いわけではなく、正確にはリヴァイが。
今日は自宅に帰れて、いつもより早めにベッドに潜り込んだものの、なかなか寝付けず寝返りばかり打っている。抱き枕──リヴァイの身長と同じだから買った緑色のやつ──に腕を回して足を絡ませた。抱き枕が服越しに秘部にあたり、ますます変な気分になる。いや、元から変な気分だった。無意識に腰を揺らして、抱き枕にこすりつけている。
体温を感じて、肌と肌が触れ合って、リヴァイの香りに包まれたかった。
口も寂しくて、キスがしたい。
シャツの下で乳首がツンと立って固くなる。リヴァイはいつも胸を揉んで、イきそうになると乳首をつまむ。痛いと言うが、なんだかんだ噛まれるのも好きだ。そんなことを思っていると触らずにはいられず、シャツの下に手を潜り込ませて、まさぐった。相変わらず、胸がないな。でも、リヴァイはいつも必ずこの絶壁な胸が愛おしいとばかりに愛撫してくれる。試しに触るけども、自分の手で自分の胸を触ったところで特別どうってことなかった。
関節が張った皮膚の厚い手で触れて欲しい。胸ではなくて下ならどうだろう。恥ずかしさや疚しさが頭を過ぎるが、こんなことは、誰も知りも見られもしない。そっと秘密の箱にしまい込んでおけばいい。リヴァイに会えないんだから仕方ない。欲情を簡単に処理するだけ、そう言い聞かせる。
腹をなでて、ぎこちなく下着の中に手を潜り込ませた。
「……っ、ふ」
濡れていた。
頭の中でリヴァイを思い浮かべる。きっちり刈り上げた黒髪に、鋭い目、身長は自分より低いくせに何で鍛えてるのか筋肉質でのしかかられると重い。力も絶対に敵わない。何度も歯向かったが返り討ちにあった。
今は噛まれる痛みすら惜しい。
太い腿で脚を割って閉じられないようにして、自分の性感帯で一番弱い秘部の蕾をまさぐる。
愛液で濡らした指で蕾に触れて何度もこする。
この手はリヴァイの手、そう頭で塗り替える。
「……っふ」
愛液がくちゅ、と濡れ出し、子宮のある腹の奥が疼いてくる。
「あ……っ」
声が勝手に出てしまう。リヴァイなら、声を殺すなと言い含めるが、ここは自分ひとりだけの部屋で居た堪れないから抱き枕を噛んだ。噛むとすれば男の肩だが、似て似つかないほど柔らかい。
それでもずっと、頭の中でリヴァイの腕の中にいればリヴァイの肩を噛んでるようにも思えてくる。
──ハンジ。
脳内のリヴァイは優しく名前を呼んだ。汗をかきはじめ、なぶっている秘部の蕾は固く芯をもっていく。
「……っ、……ん」
腰が揺れて、呼吸も早くなった。
──気持ち良いのか?
聞いてくる。指を上下にこする。リヴァイなら、もうイかせられるのに。気持ち良い、だけどあと一歩のところで疼く。
「……ふ」
目に涙が浮かぶ。
挿入れて欲しい。
ネチネチと触り続けながら、一緒にリヴァイの割れた腹筋に沿って勃つ硬い自身を最奥まで貫かれたいと思った。
「っ、リヴァイ……っ」
焦がれて名前を呼べば応答するかのベストタイミングでスマホのバイブレーターが作動する。
着信──リヴァイだ。
混乱した。どうすればいい? その次には突如として罪悪感が入り交じって、ここはとりあえずと、留守電にするつもりが間違えて受話器ボタンをタップしていた。
私は馬鹿なのか。やってしまった。
「ハンジ」
低い声が鼓膜を通して聞こえる。リヴァイの声だ。
──っつ!
肌が総毛立ち背筋がゾクゾクして、腿の内側が震えた。
ツンと立った乳首を指で摘む。腰が無意識に揺れて、秘部の口がもの寂しくパクパク動くが、下腹部に溜まった熱が弾け飛びそうだ。息が詰まっていく。
膨らみ剥いた蕾をこすり、摘む。
──……あ、イキそう……イく。
「……ハンジ」
名前を呼ぶ。同時に昇った快感は頭を浚う。
首筋が震えて、なぶっている蕾の秘部の口から愛液がどっと流れる。両足がぴんと張って、背筋が反り返る。
身体がバラバラになる。
「……あ、ああ」
顎がガチガチ震えて、噛んでいた抱き枕を離して殺していたはずの声が漏れてしまう。
流れる血流が逆流して、重力がなくなったいつもの感覚だ。
頭が真っ白に飛んで、びくん、びくんと身体を揺らした。
「オイ……大丈夫か?」
リヴァイの声で──イった。
相手はそんなつもりで電話を掛けてきたはずがない。絶頂から降りてきて真っ先に、ごめん、変なことに使ってしまったと胸の中で謝った。
何度も深呼吸しながら息を整え、やったことはそっと通話をオフにするボタンをタップすることだった。
それからも二度は着信があり、その度にベッドの上でバイブレーターが震えた。これは通話しない限り、掛け続けてくる。
観念して、精一杯の平静さを取り戻し、三度目にかけ直してきたリヴァイからの着信をとった。
「なんで切った……それに掛け直しても、すぐ出ねぇ?」
「…………」
「ハンジ……何とか言え」
「ごめん」
「……なぜ謝る?」
「…………えっちしてた……」
息を飲む間の後、通話はブツっと切れた。思い切って白状してみたら、これだ。
真っ暗の部屋でスマホの液晶がぼうっと光っている。
何も言わないで切るなんて、これは呆れたんだろなぁ。
確かに馬鹿正直すぎた。言われた本人も返答に困る。
パンツの中は愛液でぐちゃぐちゃになって気持ち悪い。濡れて冷たくて不愉快だ。なんとも言えない虚しさがあるものの、絶頂を迎えた後の特有の気だるさが残り、手足が重い。ぐったりしている。わざわざ風呂場へ行きシャワーで洗い流して、新しい下着に着替えるのが億劫になった。
それに背骨が痺れて溶けていくかの如く、ベッドがすごく心地いい。眠いなぁ、瞼が重くなっていく。腕の中にある抱き枕がリヴァイならいいのに。果てた後は抱きしめていてくれる。もう虚しさは消えて、ただ恋しかった。
微睡みから突然引き戻される。
原因は鍵をこじ開ける音であり、乱暴にドアを開け放した音だった。急いでメガネを掛ける。一瞬、何が起こったのか理解できず、急いで起き上がった時にリヴァイが寝室にいることに呆然としてしまった。
「……え……どうして?」
これは夢なのかも知れない。何度か瞬きした。
「……男は……逃がしたのか」
珍しく息を荒げ、低い声で唸る。自分を睨みつけている。
「……逃がす?」
誰を?
自分が寝ぼけているのか、それともリヴァイが?
何のことを言ってるのか、何でここにいるのか、疑問符ばかりが頭の上に飛んだ。
「呼び戻せ……その野郎と話をさせろ」
「待ってよ……急にそんなこと言われても」
リヴァイの言ってることが全くわからずにそんなことしか返せないでいたら、襟元を掴まれベッドに押し倒された。
「……っ!」
ベッドのスプリングが大きく揺れる。
「なんで、ヤった?」
ヤった、という言葉に合点する。
だが、そんなに責められることなのかと、動揺は増すばかりだ。
女がはしたないと思うのかもしれない。なんせ、潔癖症だ。
「…………寂しかった、から」
「……寂しいだと?」
リヴァイの口から奥歯をギリっと噛み締める音がする。眉間の皺がさらに増えて睨まれる。
「……だって、リヴァイにずっと会えなくて」
「聞けば、忙しいとばかり抜かして俺と会わねぇのはてめぇじゃねぇか」
襟をぎりぎり締め上げる。
「リヴァイが……そ、そんなに怒るとは思わなかっ──」
「怒るに決まってんだろうが!」
怒鳴られてびくっと肩をびくっと揺らす。
掃除をしないだとか、風呂に入らないだとかで小言を言われたことはある。だが、今まで、感情を剥き出しにしてここまで苛立ち、殺気を孕んで怒鳴りつけたことは一度も無かった。
「……出来心だったんだよ」
弁明するが何を言っても焼け石に水で、さらに怒りを買っている気がする。襟元を締め上げる手から腕まで、それにこめかみも血管が浮き出でいる。
「……俺は別れねぇからな」
「え?」
「相手はどこの野郎だ……」
「……相手って?」
「嘘は……つくなよ……てめぇが電話で言ったんだろうが」
「……私だ」
「……あ?」
「私が私とヤった」
「…………」
「…………」
幾許かの沈黙に秒針の音が鳴る。
「…………意味がわから……ねぇ」
「いや、だから、私自身でやった」恥ずかしくて早口になる。「エロい気分になったけど、君はいないから、自分で自分を慰めるしかなかったんだ!」
「…………」
「…………」
盛大なため息をついて、横に転がり込み仰向けになって脱力していた。
「……クソっ……」
「だって……それしか方法はないじゃないか! リヴァイも溜まったら抜くとかあるだろ!」
「言葉が足らねぇにも程があるだろうが……」
脱力と共に、最後の方は声が消えていった。両手で頭を抱えている。
「せっかく来たんだし、一発やろうよ」
「疲れた」
「え?」
「それに頭が痛え」
「……鎮痛剤飲む?」
「うるせぇ……てめぇが他の野郎と浮気しやがったと怒り心頭で、頭の血管がブチ切れそうだったんだ」
「そんなに?」
「連れ込んでたら殺してたかも知れねぇ」
「……私はあなたに愛されてんだなぁ」
「勘違いさせたのはてめぇだ、このクソメガネ」
寝返りをうち、背中を向けるリヴァイに腕を巻き付けて抱きしめる。
「リヴァイ」
「…………」
「ダーリン」
「…………」
へそを曲げて、返事をしない。
「ハニー」
「誰がハニーだ」
やっと応答した。
刈り上げに頬を擦り寄せる。妄想していたよりもずっと厚い筋肉質の胸板を引き寄せる。シャツの背中はわずかに汗で濡れていて、よほど焦っていたのだとわかった。ドアを開けた時も息を切らせていた。
「誤解させて悪かった、悪気はなかったよ……」手を重ね、指を絡める。「機嫌直してくれ」
「…………」
無言ではあるが、抱きしめる腕を振りほどかなかった。本当に怒っていたのなら、きっととっとと家を出ている。
「あなたがいるのに、浮気なんかするわけないじゃないか」
抱き枕と同じく足を絡めたが、リヴァイの足はずっと太くて固い。足の指でリヴァイの足の甲を撫でる。
「私は信用されてないのか?」
「自分が撒いた種の話をすり替えるな」
背中を向けたままだが、横目でこちらを見る。
「……落とし前をつけるんだ。責任持って、俺の機嫌を直せ」
「……どうやって?」
リヴァイは少し考える素振りをした。
「お前が一人でやるところが見てぇな」