熟考する蝶 最近の俺は何かが変だ。
いつも飢えているのだ。
クリーム入りの紅茶を飲んでも、アリスにご馳走するお菓子や料理を少し食べてみても何かが足りない。
正確に言うと、お腹が空いている訳ではない。
バタ付きパン蝶は紅茶で生きられる。本当は食事は不必要である。
では、なぜお腹がすうすうした気持ちなのか?
そういえば、すずれちゃんが家に来ている時が一番満たされている。しかし、あのアリスが帰った後に机に残った食器を片付けていると特にすうすうした気持ちになった。……なぜだろうか?
先日一緒にブランデーを飲んでから、数日は頭が鈍く痛んで思い出せなかったが、段々思い出してきた。
頭を撫でて貰ったこと。甘い香りと柔らかな身体。さらさらとくすぐる髪。そして額と瞼への微かな温かさ。
その記憶を思い出すと一層に飢えた。
細くて綺麗な手で撫でて貰いたい。白く柔らかな肌を食みたい。絹糸に似た薄茶の髪を手で掬いたい。その温かさに当たりたい。もっと!もっと!もっと!
もしかして彼女の言う『大切』とはこのような気持ちなのか?こんなに寒くて苦しいなんて、あんまりじゃないか!
寝室の棚からレターボックスを取り出す。机に乱暴に引っくり返した。今までやり取りした手紙の中に何かこの気持ちの正体が載っていないだろうか?
一枚一枚取り出して目を通すが、俺にはこの気持ちに当てはまる言葉が見付からなかった。
それでは教えてもらわなければならない。あのアリスなら。すずれちゃんなら知っているのかもしれない。
きっと近々、手紙の返事を持ってきてくれる。
こんなに誰かが家に来ることを望むのは、生まれて初めてだった。