キスの日「なあ、今日が何の日か知ってたか?」
ベッドマットがズシンと沈む。キミの身体が俺の隣に横たわる。それからキミは大きな身体をもぞもぞ動かして、こちらを向いて転がった。ダブルベッドもキミにとっては窮屈だ。よく磨かれた黒曜石のような目がきょとんとしておれの顔を見た。
「まさか、おれのお誕生日か?」
「ははっ、もしそうだったとしたら、おれが盛大なパーティを開いていないのはおかしいだろ?」
「ウム? それもそうか。ということは今日は……?」
「今日は、『キスの日』だったらしいぜ。先に行っておくが魚じゃないぞ」
「キス!」
キミは一度目を白黒させた後、ガバっとベッドに起き上がった。もう照明も消してしまった暗い部屋で、キミに覆いかぶさられると……何も見えない。キミのキラキラ光る黒い瞳の他は。
おれはまた、キミにベッドに押し倒されたことになる。本日は二度目だ。
「グランツ! どうして早く言ってくれなかったんだ!」
「いつ言おうかタイミングを伺ってたんだ。こういうのは、キミにキスしてもらう良い口実だと思ってさ」
「ウウン、言ってくれればすぐに……! ……よし! 今からでも遅くはない! やってやろうじゃないか!」
「……ぷっ、あははっ、でも今日は朝からキミが、『おはよう』とキスをしてくれて……あっはっは、それから何回も、さっきも、いつものようにたくさんしてくれただろ!」
「そうだっけか? 何回も?」
「そうさ、何回も、数え切れないくらいにだ。それでおれはすっかり口実のタイミングを逃してしまって……デグダス?」
「ウムムム……そんなにしただろうか? しかし……」
キミがおれの上で呻っている。掴まれた手首にキミの岩のような体重が乗っていて、身動き一つ取れない心地が不思議と安心する。そんなキミは優しくかわいい顔でおれを見下ろし、悩んでいる。
「しかし……今日はまだ、『キスの日』、だな?」
「ああ。日付が変わるまで、まだ少し時間がある」
「それなら、あと一回」
「……もちろん」
おれが頷くと、キミが大きく深呼吸したのが聞こえた。「よし」とキミがこっそり呟く。
ああ、今日何回目のキスだって、変わらず身体が熱くなる。キミもきっとそうだ。唇が触れる前から、キミの熱が近づいてくるのが解るくらいに!