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    masasi9991

    @masasi9991

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    ちょっと弱った大ガマさんの土ガマ

    ##妖怪ウォッチ

    痛くてもかまわない


     めずらしく、戸を叩いて入ってきた。
     外は今に洪水となろうという大雨であり、一向に止む気配もない。昼間であるのに真っ暗だ。おまけに寒い。恐らくこの雨のために人里の畑は流され、病がはびこり、命を落とすものも少なくはないだろう。少し前からこの物哀しい天気が続いている。
     そんな折、静かに戸を叩く音と共に現れた。
     旅の帰りであろうか、笠と蓑をかぶって、降り続ける雨から身を守っている。がしかし雨は激しく、雨具などでは事足りず、その身体はすっかり濡れそぼっていた。
     して、濡れた身体はすっかり冷え切っている。無論、その身体はいつでも冷たい。しかし今日ばかりは常に増してことさら冷たい。それも、この雨も、彼奴にとっては望むべくものかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。というのは、こうして膝の上に……寝間着の薄い襦袢越しに、膝の上にじわりと滲み、感ずるものが語っている。これは雨だれではあるまい。夜よりも前に、その身体はすっかり拭ってやったのだから。
    「まったくめずらしい。表の戸を叩いて入ってきたのもめずらしい。多くを語らぬのもめずらしい。こうもしおらしいのもめずらしい」
     瞳から滲むものばかりは熱いが、膝の上に乗った頬はひんやりと冷たい。相変わらず座敷の上は雨音ばかりが物悲しく聞こえている。手持ち無沙汰になって煙草でも、とふと手を伸ばすが、立ち上がることはできそうにもない。泳いだ手で、冷えた頬に触れる。
     雨の夜、行灯も心做し弱々しく暗い。青く白い此奴の肌がぼんやり光って見えるほどだ。
    「こんなおれも、そそるだろう?」
    「その強がりがなければもっと、と言いたいところだが……」
     頬をくすぐる。下のまぶたの柔らかな膨らみをそっと指先で押さえつければ、暖かく湿っている。嫌がって逃げるかと思ったが、されるがままだ。
    「もっと早う……早う、頼ってきても、よかったのだ」
    「げこ」
     と、喉からこぼれた笑い声、嗚咽、吐息、いずれか。いずれにしても本性をぽろりとこぼした。
    「膝を借りに来ただけさ。それだけで十分、見くびらないでくれよ」
    「そういうことにしておこうか」
    「うん。……あんたの手は、熱いなあ。手だけじゃあねぇ、けど」
    「蛙の肌と比べればな」
    「もう少し手を貸してくれ」
    「む」
     伸びてきたその手に手を取られ、その頬へと押し当てられる。
     肌は氷のように冷たい。しかし動きを止め時の止まった氷というものとは全く違って、大ガマの柔らかな肌の下は命が脈々と流れている。その鼓動は溢れ出んばかりの力強さに満ちている。
     吾輩の内なるものとは真逆だ。
    「あんたの手は熱い。痛いほどに熱い」
    「火傷でもしてしまいそうか?」
     寝物語に、柄になく軽口を叩いた……しかしふと、それが冗談にもならぬことに気がついた……氷が溶けるように。有りえぬ疑いでもないと気がついて、頬に当てた手のひらを退けようと腕に力を入れた。
    「ああ」
     静かに閉じた瞳は、膝の上で頷いた。だが吾輩の手を握って、頬に押し当てさせて、離さない。
    「それでもいい。この手がいいんだ。でなきゃ、いつもこうして逢いには来ない」
     囁き、柔らかく、我が熱を抱いた手にとけるような、声。


    (了)
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