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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    土蜘蛛さんと小さい大ガマさん

    ##妖怪ウォッチ

    ぼうぜんと


     座敷の真ん中に座布団も敷かずに座って、少しも動こうとしなかった。
    「おおい、つちぐも」
     なんだか事情がありそうな雰囲気だが、そんなのおれの知ったことじゃない。おれは土蜘蛛に用がある。だからいつものように、天井裏の梁からその脳天向かって声をかけた。
     が、やっぱり動こうともしない。
     いんやほんとを言うと、ちょっと動いた。おれに呼ばれたのはちゃんと聞こえたらしく、その瞬間にぴくり、と。しかし返事をしない。腕組んだまま。上から見える白い額に、しかめっ面のシワが浮かんでいるのが見える。
     ということは聞こえておきながら無視を決め込んでいるってえことだ。
    「つちぐも。おい、つちぐもってば」
     何度呼んでも腕組みのまま。このやろう。
    「わかったよ。もういい」
     おれは一人でへそを曲げて、梁をつたって屋根の上へ戻る。
     と見せかけて。
    「それっ」
     天井の端から勢いよくぴょんと跳んだ。じっとしていて隙だらけの、間抜けな後頭に狙いを付けて。
     目にも留まらぬ蛙のするどい飛び蹴りを、そのどたまに食らわせてやる!
    「やめんか!」
     ところがそれも読まれていて、土蜘蛛のやつ、ひょいと首を傾けてかわそうとする。
     おれの飛び蹴りは畳の上へ……ってところが。
    「ぬあっ! お、おのれ! しまった!」
     かわした直後に土蜘蛛のやろうは突然大慌て。どうしてかおれの首根っこを空中で掴もうとする。しかし蛙の蹴りは早業で、簡単に捕まったりはしねえ。避けられちまっているから、そのまんま床にぶつかるだけだが。
     それでも土蜘蛛は慌てて手は出す、糸は出す、なんだかいつもと違ってぐちゃぐちゃにもつれた糸を。
    「なにをしやがる!」
     絡め取られて首も掴まれ後ろに引っ張られ、どういうわけだか勢い付いて土蜘蛛まで一緒になって後ろ向きにごろんごろんと畳の上へ転がってしまう。土蜘蛛のやろう、自分の出した糸におれと一緒に絡まった。
    「はなせ! べとべとする!」
    「それはこちらの台詞だ! 何をしに来た!」
    「なにもかにも、いつでも勝負を挑んでこいと言ったのはてめえじゃねえか!」
    「ぬ……」
    「腕試しに付き合ってくれるって話だったじゃねえか。忘れっぽいな」
    「うぬ……言われてみれば確かにそのようなこともあったような……」
    「つまり土蜘蛛の虚を突いたからおれの勝ちだな?」
     べとべとの糸を身体から引き離しながら、おれは座敷の上にぴょんと降り立った。まだ糸は絡まっていて、動きにくい。
    「待て待て」
     畳の上に糸をなすりつけようとして転がっていたら、起き上がった土蜘蛛にまた捕まえられた。
    「そちらに行くでない」
    「なんだよ? そういえばあんた、何をぼうっとしていたんだ?」
     座り直した土蜘蛛の膝の上に乗せられる。頭の上からなんだか情けないため息が聞こえた。
    「なんでもない。お主は、今日のところは黙って帰るがいい」
    「そう言われると帰りたくねぇな」
     でふと、座敷の上を見回す。
    「ん?」
     なにかが変だな、とぼんやり気付いた。しかし土蜘蛛の座敷はいつもみんな全部よくわからない。山や川とは様子が違う。だからなにがおかしいのか、すぐにはわからなかったが。
    「あ! ボーロがある!」
     よく見ると畳の上に畳とおんなじ小麦色の、ボーロのかけらが転がっている。ボーロというのは、おれもよくはわからないが、ときどき土蜘蛛が食わせてくれる甘いお菓子の塊だ。たぶん土蜘蛛が好きなやつ。
    「これ、床に落ちたものを口に入れるな。はしたない」
    「でもいっぱい落ちてるじゃねえか」
     畳の上にぽろぽろ落ちてるやつに手を伸ばそうとして咎められる。まだ糸もくっついてるし、土蜘蛛の膝の上に捕まえられているから、遠くまで手を伸ばせない。どうにかして手が届くやつを拾って、食いてぇんだけど。
    「落ちているのではなく、これは落とした……」
     もごもごと何かを言って、またため息。最初にぼーっとして座敷の真ん中に座ってたときに戻ったらしい。
     畳の上に転々とボーロは落ちていて、それを目で追うと最後に部屋の隅の文机が蹴っ飛ばされたのか蹴躓いたのかで傾いていて、そこに盆や茶碗やその中身まで一緒にひっくり返っている。
     盆の上に乗せたまま食えばいいのに、土蜘蛛のやろうは変なことをしやがる。


    【了】
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