ラッキースケベ1「うわぁっ」
落石だ! 崖の近くで作業をしていたグランツが、反射的に飛び退いた。ガラガラガラ……と音を立てて岩が落ちてくる。
ほんの短い間だったが、たいへんな轟音と砂埃だ。採掘はいつも危険と隣り合わせ。このようなことに備え、ペアで作業に当たるのは非常に大切なことである。おれとグランツのように。
「大丈夫か、グランツ?」
「ん。ああ、なんとか。キミがクッションになってくれたおかげだな」
と、おれの胸元でグランツがお返事をした。ムム? と思って自分の腕の中を覗き込むと、いつの間にやらおれは逃げてきたグランツを抱きとめていたようだ。おれの胸板にグランツの頭がうもれている。
「キミが居てくれて助かったよ」
そこで喋られると胸がほよんほよんとしてくすぐったいのだが、グランツの命が救われたとなればくすぐったさなど安いものだ。〇・一グラムのクルブルク銅よりも安い。
「そうだろう、おれは役に立つ男なのだ。かつてはよく待てば海路の日和ありと言われたもので……」
「ぷっ、あはは。それを言うなら備えあれば憂いなし……いや、それも違うか。フフフッ」
なんて喋っていると、グランツがなぜかプルプルしている。どういうことだ? あっ、これはもしや!
「しまった! 力を入れすぎたか!? 苦しいのか!?」
「いーや違うぜ、これは笑いをこらえてるだけ……あっはっはっはっは」
「そうなのか? ぜんぜんこらえているようには思えないんだが」
「あははは! そういえばそうだな!」
やっぱり苦しいんじゃないか? と思うものの、腕を離しても逆にグランツの腕がおれの背中にぎゅーっとしがみついている。こうなるとおれだって負けずに抱きしめ返すしかないぞ!