朝にのんびり「グランツ、朝だぞ。今日はとってもいい天気だぞ」
声をかけつつ寝室の窓を開ける。朝日が眩しく、いい天気すぎるぐらいいい天気だ。しかし窓から吹き込んだ風は少し肌寒かったかな。ベッドの上でお布団にくるまっているグランツが、さらにモゾモゾと動いて丸くなった。窓を開けっ放しにしておくのはやめておこう。
「なあグランツ、朝のお味噌汁の具はなにがいい? おれも寝坊してしまったから今から作るんだ」
「んん……」
お布団の中からもにょもにょと声がする。ちゃんとおれの声を聞いてくれていたらしい。おれもベッドに腰掛けて、グランツの入ったお布団を上から揉む。
モミモミ。そういえば昨日の夜は冷えたから、厚手のブランケットを二枚かぶって寝たのだ。なので二枚のブランケットに包まったグランツを上から揉んでも揉んでもブランケットの感触。ウーム。
「……なんでも」
「んっ? なんだって?」
「朝飯、キミが作ってくれるなら、なんでもいい」
眠たそうな声がお布団の中から響く。いや逆だ、全然響いてない。もにょもにょしている。
「なんでも入った味噌汁かあ。冷蔵庫の中にはカボチャ、卵、キャンディー、それにさつまいも、ミルク……」
「それを全部入れたら味噌汁じゃなくなってしまうな」
グランツのおしゃべりは相変わらず眠たそうではあったが、小さな声で吹き出したのも聞こえた。そろそろ目が覚めてきたかな?
それにしても分厚いブランケットのおかげで少しさびしいな。いつもならおれがこうしてモミモミすると、グランツはすぐに大きな元気な笑い声を聞かせてくれるのに。
「つまりお味噌汁の具は一つに絞ったほうがいいということか。カボチャのお味噌汁、卵のお味噌汁、キャンディーのお味噌汁……」
「ふふっ、キャンディーは危険だぜ」
「ということはそれ以外か……ウームムム、いや待てよ? お味噌が冷蔵庫になかったような?」
「朝市に買いに行く、か?」
「それも実にいい案だ! 市場にもお味噌汁の具が売っているわけだし」
「あっはっは。どうしても具だくさんのお味噌汁にしたいわけだ」
「お休みの日の豪華なお味噌汁、ワクワクしないか?」
「そうかもしれないな」
お布団の中身がクスクス笑っている。お布団を揉んでいる手にもそれは伝わってきているのだ。さっきは大きな声で吹き出していたし、もう確実にしっかりとグランツは目を覚ましたようだ!
「ようし、それじゃあお出かけだ、グランツ! お布団から出るぞ!」
「あっ」
おれはグランツのお布団をがばりとめくった。情け容赦はなしだ。だってグランツとお出かけをしたい! その前に朝のおはようをしたい! 顔も見たい! したいの気持ちが我慢できなくなってしまった。
急にお布団をめくられたグランツは、大きな目を眩しそうにパチパチさせた。寝起きの顔はちょっとまあるい形で、ほっぺたがピンク色。おれしか知らないグランツ。
「さあさあ、もうすっかり目は覚めているんだろう? 今日も一日が始まるぞ! 急がないと朝市が逃げてしまう!」
「……ぷっ、あははっ! 確かに、のんびりしすぎて昼になったら朝市ではなくなっているもんな」
「そういうことだ。急いで起きて一緒に出かけよう!」
ベッドの上のグランツの顔を覗き込んで、丸いほっぺを手のひらで包んでモミモミする。グランツがくすぐったそうに目を細める。
やっぱりブランケット越しよりこっちのほうがずっといいな。グランツの笑顔がちゃんと見える。