笑うのが上手 ベッドの中で半分目が覚めている。なんとなく眩しいような気分。
半分、開いてるような閉じてるような瞼の裏に映るのは、まだカーテンが閉まっていて薄暗い寝室だ。それでもカーテンの隙間から入る朝日の白さが眩しい。それで目が覚めてしまいそうなくらい。
もうすぐデグダスが起こしに来る頃だ。それまでに全部目を覚ましてしまうのは勿体なくて、改めてベッドの中に頭まですっぽりと潜り込んだ。我ながらなんだか変なワガママだけど。寝ぼけているのかな、と寝ぼけた頭で考える。わからないな。
わかるのは一階の台所で朝食を作っているキミの気配ぐらい。その気配が廊下に出てきた。階段の方に向かっている。階段を登ってる。もうすぐだ。ドキドキする。嬉しくて胸の奥の方が落ち着かない。毎日の些細なことに、いつでも何度も幸せで、慣れない。
「グランツ! ムッフッフッフ……フフ。朝だぞ。おねぼうさんめ!」
鼻歌まじりで上機嫌に寝室に入ってきて、おれが潜っているベッドの淵にどっかりと腰を下ろした。ぽよんとマットが跳ねて揺れる。中に入ってるおれまで揺れる。それがおかしくて、シーツに顔を半分埋めたままこっそり笑った。丈夫なベッドを買っていてよかった。
「グランツ、早く起きてくれ」
ブランケットが前触れもなくめくられる。あれ? 今日はちょっと性急だな。いつもなら優しくそーっと起こしてくれるのに。それにカーテンを開けることも忘れているみたいだ。
でももちろん、おれはキミのすることに異論なんてないし、何より急いでおれに起きてほしいと思ってくれてるなんて、それだけでうれしくてどうにかなってしまいそうだ。
だけどさっきからこっそり笑っていたのを隠すために、おれは寝返りを打つフリをしてシーツに顔をうずめて丸まった。
「今日は朝から……ムフフッ、おれは元気百倍だ! 元気百倍になる予定だ! なにしろ今日の朝ごはんがな、フッフッフ。今日の……実は今日の朝ごはん当番は、誰だと思う!?」
キミが開けっ放しにした寝室のドアから、朝食のいい匂い。さっきブランケットをめくられてしまったから、たまらなくなってきた。上機嫌なキミのおしゃべりだけでもたまらないってのに。それに、それにだ。
「ふっ……ぷっ、ぷはっ、あはははははははははっ! おれが寝てるんだから、朝食の当番はキミに決まってるじゃないか!」
もう我慢出来ない! シーツに隠れるのはもう無理で、おれは腹を抱えて笑い出した。
キミはやることなすことしゃべること、いつだって最高だ。
「おわっ!? ハッ! そうか、クイズにするには簡単すぎたかな!?」
「あはっ、はっはっはっ、だってキミとおれの二人しかいないんだぜ……ふふっ」
「見抜かれてしまったものは仕方がない。起きたな、グランツ!?」
「いや、まだ寝てる」
「本当か?」
もうバレてしまったのに悪あがきで、ベッドの中にまた丸まって、ブランケットの下へ潜り込もうともぞもぞ動く。するとキミが追いかけてきて、一緒にベッドの中だ。背中からがっちりと捕まって羽交い締めにされる。
「こんなに大きな声で笑っているのに本当に眠っているのかな!?」
本当に疑っている。本当に眠ってるかもって、少し信じさせてしまったようだ!
「あっはっは、これは寝言だよ。おれは笑い上戸だから寝ながらだって笑えるんだ!」
「ムムッ。確かにグランツは笑うのが上手」
「あっは、ちょっと違う、っはははっ! くすぐったい!」
「ではこんなにジタバタ動いているのも寝相なのだろうか?」
「デグダス! あはっ、はっ、そこっダメだ、弱いんだ! わかった起きる! 起きるから!」
「これもまた寝言? 起きるという寝言か?」
「違うって、あははっ、本当なんだ!」
「違う? 本当? 一体どっちなんだ? せっかく今日の朝ごはんは最高のできあがりなのに!」
キミにくすぐられてジタバタして、今日も朝から楽しくって仕方がない。
でもこんな、カーテンも開けない薄暗い部屋でキミとこんなことしてると、ちょっとたまらない気分になってしまうな。せっかくキミが作ってくれた最高の朝食が待っているんだから、我慢しなきゃいけないってのに。ダメだと思うと余計に、ダメになりそうだ。