飲みすぎ注意「デグダス!」
とおれに呼びかける声がすぐに聞こえた。お店のドアを開けてすぐ、むしろ開けた瞬間、もしかしたら開けるちょっと前だったかも? なんにせよ非常にありがたい。こえの方向を見れば、すぐにグランツが見つかった!
「こっちだ! あっはっは。報告書、思ったより早く片付いたんだな? お疲れ様、デグダス」
「うむ。今日はもう喉が乾いて喉が渇いて! はやく冷たい麦ジュースを飲みたくて急いでやっつけた! ……でもあとで一緒に確認してくれ」
「ああもちろん」
グランツの横がちょうど空いていたから、そこに座らせてもらった。賑やかな飲み会のテーブルには麦ジュースのグラスがいくつも並んでいる。それにたくさんの料理も。しかしおれの分はない。まあ遅れて来たのだから仕方がない。
「なあ、さっきキミの話題になってたんだ」
「えっおれの? なんだか新体操だな」
「あっはっはっはっは! 緊張の言い間違いだな? あは、いつもどおりキミは最高だ」
いつも以上に笑い上戸なグランツは、どうやらもうすっかり出来上がっているようだ。お顔も、耳までピンク色だし。グランツの前には空になったグラスが二つ、並んでいる。そして中身が半分くらい入っているのが一つ。うむむ、既に二杯半は飲んでいる。
「なあデグダス、キミ、昨日の飲みのときに」
「これもらってもいいか?」
「あ、おれの。もちろん」
先に断ってから、グランツの半分になった麦ジュースをもらうことにする。グラスの前に手を出す。グランツもおれに取ってくれようとしたらしく手を出したが、おれの方が早かった。グランツは空振りだ。そのままくたっとしておれの方に倒れてくる。
「もうかなり酔っ払っていじゃないか」
麦ジュースを握ってない方の手をグランツの後ろに回して、ほっぺたと耳を撫でる。むにむにしているしホカホカだ。つまりとっても酔っ払いだ。
「あはは。だってキミが来るのが遅いからさ。みんながキミの話をするんだ」
「おれはそんなに話題の的になってしまう男だったかぁ」
照れるなあ。そう考えると思わず赤面、熱くなる。そうして胃の中に流し込んだ麦ジュースの冷たさが心地よい。ちょっと冷え過ぎか? と思っても、片手にはホカホカのグランツのほっぺたが当たっているので全く問題ない。
「ふっ、ふふふっ、昨日は、採掘師の集まりと間違えてキグルミ専門学校の同窓会の集まりに混じってたって……」
「おお、そうそう。どうもな、みんなで運動会の話をしていて、おかしいと気が付いたんだ。玉入れられというのを毎年やるそうなんだが」
「玉入れられ?」
「二人一組になって、玉役のキグルミが投げる役のキグルミにゴールに向かって投げ入れられるという……」
「あっはっはっはっは! キミを投げ飛ばせるキグルミなんかいないものな!」
「いや、いるかも知れないから順番にみんなでお互いを投げ飛ばそうということになって、久しぶりの学生生活を思い出したりしていたのだ」
「本当に投げられることになったのか? あはははっ」
「いやいやそれが、さあ投げとばされるぞ! としたところでお店の人に追い出された」
「あはははは!」
「そのときおれ自身、採掘師だった! ということに気が付いて事なきを得たのだ」
「ふふ、あはは! さっきそれを聞いて、あっはっは、キミが今日は間違えないようにと、思って、あっはっはっはっは!」
「そうそう。グランツがいてくれて今日はとても助かった! またうっかりキグルミの卒業生になってみるところだった!」
「あはは! 毎日同窓会はやってないだろうけどな!」
笑いすぎたグランツがだんだんおれの膝の上に落ちてくる。自分のお腹を抱える代わりに、おれの腹を抱えているというわけだな、うん。それでいいのかな?
やっぱりお酒は楽しい。でも飲みすぎ注意だ。