その翌朝のこと ふと目が覚めて、なんて気持ちのいい夜だったんだ! と胸をウキウキさせながら背伸びをして布団から身体を起こす。ちょっと名残惜しい暖かさがお布団の中に残っている。まだ少し暗い朝、まだ起きる時間にはちょっと早い明るさのお布団の中を覗き込むと、グランツが丸まって眠っている。
空気に触れた肩が少し寒いと言わんばかりでぷるっと震えた。そしてさらにお布団の奥へもぞもぞと潜り込む。
悪いことをしてしまった! そう思ってめくったお布団を慌てて元に戻す。いや元通り以上にしっかりくるんで包んでおいた。これで安心。
いやしかし、そうは言っても、これじゃグランツの顔が見えない。まだ起こすには早い時間ではあるかもしれないが、でもせっかくだし。せっかくの……いつもと特に、変わらない朝だ。いつもどおりによい朝だ。しかし特にぐっすり気持ちよく、眠れた朝だ。昨日はぐったり疲れて眠ったからな。
お布団をソロソロとめくってグランツの顔を出す。肩までめくると、寒そうだ。寝間着も着ないで寝るんだもの。しかしそれはまったくおれの責任だ。おれもなんにも着ていないし、昨日の今日だ。しかたがない。
そんなこんなでだんだん朝は明るくなっていく。お布団の中で眠るグランツのお顔を見ているだけで。
ちょっと触ってみてもいいだろうか。ほっぺぐらいはいいだろう。寒そうにしていたし、暖まってもらうためにはいいんじゃないか。なんて心に言い訳しつつ、触ってみるとふにっとポカポカ。眠っているのだから体温が高いのは当たり前だ。通じない言い訳をしてしまった。だがおれがほっぺたを触ったら、グランツは眠っていながらも口元と目元がニコッと、笑顔になったようなそんな気がするので、悪くはないのではなかろうかと思ったり思い上がったりいたしまして……。眠っているのに笑い上戸なグランツが、今日もすばらしい。昨日も明日も間違いなく。昨日の夜も気持ちがよかったし、なぁ。
いや、いや、そういう意味のきもちいいではないぞ。ただ本当にぐっすりよく眠れたという意味で、目が覚めたんだ。それは本当だ。しかしこうして、お布団の上でグランツにまたがって見下ろしていると、そんな記憶が蘇ってくる。
気持ちが良かった、というのもそうだが、身体の真ん中からぶるぶる震えてしびれるようなあの感触そのもの、だとか、そのときの音、声、匂い、と。部屋は真っ暗。裸だけどとても暑い。触っているところから汗がにじむ。でも汗も出ないようなそんな部分も、ある。グランツの味がする。
「グランツ」
……起こす気はないんだが、もんもんとしているうちに思わず声が。
どうして呼んでしまったのか、というと。
「起きたらでいいので、……そうだ! キスを、し、しました!」
「ぷふっ、あっはっはっはっは!」
「あっ、あれ?」
すっかりしっかりぐっすり寝ていた、と思っていたグランツが、急にでっかい声を! お布団に埋まったまま、肩を揺らして笑っている。
「あはは、まだキスはしてないぜ」
「むむむっ。もうしたような気持ちになっていた!」
「あはっ、あはははっ!」
肩を揺らしてお腹を抱えて……ではない。両腕は顔を隠そうとしている。耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに。もしかしておれが見つめすぎていたから恥ずかしくなったのか? ということはずっと前から起きていた!
「じゃ、しなくてもいいのか?」
「いいや! したい! だがその手をどけてくれないと」
「ン」
短く答えたのは、うん、という意味だな?
腕を掴んで少しずらす、その下の顔を見る。と恥ずかしそうな赤い顔が出てくる。
……ウン、やっぱり昨日のことを思い出してしまう。グランツもきっとそうなのだろうな。だから今日の朝は気持ちよく早起きしてしまったというわけだ。