ドーナツひとくち「むむっ、かけすぎてしまったか!?」
「ドーナツってこんなもんじゃないか」
「そうか? 食べにくくはないか?」
むむむ、と唸って口をへの字にする。確かにキミはうっかり砂糖をかけすぎたのかもしれない。でもドーナツってのはこんなものだ、ってのも一理あるんじゃないか。そして食べにくいってのも、どんなドーナツでも一緒だ。
「あはっ。口の周りを砂糖だらけにして食べるのが、ドーナツの醍醐味だろ?」
「言われてみればそれもそうだ。罪な食べ物だなぁ」
「あっはっはっはっは。ま、とにかく食べちゃおうぜ。もうおあずけはなしだ、待ちきれない」
「ああ!」
砂糖をまぶしている間もキミは幸せそうな顔。かけすぎた! と慌てた困り顔も、それはそれでイイ顔だった。おれが食べにくいんじゃないかと心配してる顔まで、全部たまらない。
それに、さあ食べよう、とおれが促したときの嬉しそうな顔も見逃せなかった。子供みたいによろこんでる。キミが作ったドーナツだから、キミがいつ食べたって構わないってのに。
砂糖まみれの大きなドーナツを大きな指でつまみ、指を砂糖まみれにして、あーんと口を開く。
キミを見つめてるばかりじゃなくて、おれも残されたもう一つを貰おう。
「一口目、特に気を使うよな。うまくかじらないと口の周りが砂糖まみれになる」
ドーナツを食べるときは、いつも最初が悩ましい。丸くて岩のような大きな輪っかをしばし見つめた末、ひとまず控えめに一口をかじる。まぶされた大粒の砂糖も、外はサクサク、中はふわふわの生地の素朴な甘さも、どちらもガツンと美味い。
「はは、どうやっても口の周りに砂糖がついてしまう!」
「ん?」
同意を求めてキミを見ると、キミが首を傾げる。そんなこと気にしていなかった、って顔。なによりおれが思い悩んで一口かじっている間に、キミはぱくっと一口で、輪っかの半分近くを食べてしまっていた!
「あはっ、あっはっはっはっはっはっは!」
「むむ? どうした? なにか楽しいことがあったのか? おれにも教えてくれ!」
「ふふ、あははっ。いや、キミの作ったドーナツが美味しくて……あっはははっ、それに沢山ヒゲが付いてるぜ!」
「んむむむ? おれは元々ダンディーなお髭が生えているはず」
「新しく白いヒゲが生えたみたいだ。あとでおれに食べさせてくれ」
「え!? 髭を!?」
あとで、とは言っても全然我慢ができなくて、すぐにキミの顔に手を伸ばした。口の周りについた砂糖の粒を、指で取って口に入れる。もちろん、甘い。ドーナツの味。
キミはそれでもまだ不思議そうに、しきりに首を傾げている。