今夜の支度 まだ落ち着かない。ちょっと気を抜いたら、思い出して笑ってしまう。いけないな、笑って手元が狂うと危ないし、何よりもうこんな時間だ。騒ぐと下の階で寝ている二人が起きてしまう。ま、元々まだ寝ていないとは思うが。
「大丈夫か? 元に戻るだろうか?」
「元通りは無理だろうな。おれの裁縫の腕を信用しないでくれよ」
「しかしおれがやるよりずっと上手だ!」
ベッドに座って作業をしているおれの手元を、キミが心配そうに、そして申し訳無さそうに、さらに大焦りで覗き込む。
二人してベッドの上に座っているが、おれたちこそ今夜はまだ眠る気はない。ただ想定外の裁縫の仕事に、ちょうど適した場所が他になかっただけだ。それに裸のキミは、ブランケットにでもくるまって暖まってもらわないと。
「とりあえず形になってりゃいいさ。どうせ暗くて見えないだろうし」
「それにぐっすり眠っているだろうからな」
「ああ、うん。多分な」
「とはいえ物音で起こしてしまわないとも限らない! その上採掘師は暗いところに慣れているから夜目が効く! だからちゃんとクロースさんになりきらなければならないのだ。おれの兄と姉はまだ伝説を信じているからな」
「ぷっ、ははっ! それじゃ逆だぜ! キミが兄で、彼らが弟と妹だ」
「ははーん、おれが弟だったか」
「キミ『の』弟たちだ」
……おれは裁縫師には向いていないな! すぐ笑っちまって手元がおぼつかない! キミが側にいるときはもちろん、少し離れていても、キミのことばっかり思い出して笑ってしまうからな。
でも今日はいいんだ。このサンタクロースの衣装は、それほど必死になって繕う必要はない。ひとまず着れればいい。なんなら下で眠っているフリをしているいい子たち――ロックやロッタナの枕元にプレゼントを置きに行くという目的のためには、特に必要もないくらいだ。二人とももうサンタクロースの正体がデグダスだと知っている。
年齢的にロックはもちろんとして、勘のいいロッタナはもう何年も前から気づいてたようだ。しかし「アタシがまだサンタを信じているってお兄ちゃんが信じているのを裏切りたくない」ってワケで、そのことについておれは口を噤んでいる。
かくして今晩は、キミが意気揚々とサンタクロースになりきるのを見学していた。が、しかし年々大きくなるキミの筋肉に、サンタクロースの服は悲鳴を上げ……。キミが今年のプレゼントの箱を持ち上げた際、ついには、ビリッと。ついさっきのことだ。
「……ふっ。フフフッ」
「ん?」
また思い出し笑いをしてしまった。そんなわけで、キミからサンタの服を剥ぎ取って修理している。大胸筋に弾け飛んだ胸元の白いポンポンのボタンと、ズボンのお尻もだ。
「もうすぐできるぜ。ほら、なんとか穴もふさがった」
「おおぉ! これで今年もおれがクロースさんだ!」
「いや……でも思ったんだが、これをキミがもう一度着たらもう一度破けるんじゃないか?」
「え!」
「本物の裁縫師なら大きいサイズに縫い直したりできるんだろうが、素人のおれにはちょっと無理だ」
「えっ……おれがクロースさんになれないとなると……」
「一応着てみるか? もしかしたらおれの適当な縫い方で服がデカくなってるかもしれない」
「むむむ、でもそれでまた破けたら、またグランツのお手を煩わせてしまうし」
「いいぜ、キミの服が破けるのもキミの服を縫うのも面白い」
「うーん、うむむむむ。こうしている間にもクロースさんを待ついい子が二人……。どうしたらいいんだ!」
「そうだな……ん、じゃあ……おれが着るってのはどうだ?」
「ええっ!? グランツが? ……着れるのか?」
「ちょっとブカブカだけどな。いいアイディアじゃないか?」
「すばらしいアイディアだ! ちっとも思いつかなかった!」
「あっはっはっはっはっはっは!」
片袖を通すと、やっぱりかなりブカブカだ。でも破けることはない。上着もズボンも、さっきまでキミが着てたのを着るってのは、ちょっと変な気分になってしまうが。そんなことを考えてちゃいけないな。
「どうだ? 似合うか?」
「おまえは何を着ても似合う」
「ンッふっふっふ、そんな力強く言われると照れるな……。そうだ、付け髭もあるんだっけ」
「それも似合う」
「ふはっ。それこそ予想外だ!」
と、いうわけで今年のサンタクロース役はおれがやることになった。二人のいい子のためのプレゼントを袋に詰めて、準備は万全だ。
キミが選んだプレゼントの中身はなんだろう? 大きな箱に、かなりの重さ。鉱石かピッケルかそれとも他の道具なのか、なんにせよ採掘に関するものに違いない。デグダスの一家はみんな三度の飯と同じくらい採掘が大好きだ。
「よし、行ってくる。いい子がきっとお待ちかねだ」
「いやこんな時間だから寝ているだろう。待ってはいないぞ。眠っていないとクロースさんは来ないと二人は知っているからな」
「あ、そ、そうだな」
今、ボロが出るところだったな。今更ながら慌てて自分の口を塞いだ。意味もないし怪しすぎる。
ドアの前で一人で慌てるおれの前に、キミがやってきてまじまじと見た。
「どうした、デグダス?」
「やっぱり似合っている……と思ってだな。見惚れていた」
「あはは、ありがとう」
おれにとっては裸のキミがそこに立っているのに見惚れてしまいそうだが。あんまり見ないようにしてるんだ。今夜はまだやることが残ってるわけだから。