見えるところに このへん、な気がする。指で触れてみると少し熱を持っているような感覚があるから。でも自分じゃちょっと見えないな。鏡の前で後ろ髪をたくし上げてみたところで、自分のうなじを見ようにも限界がある。
感覚だけは確かにあるから、ひたすらもどかしい。
鏡がもう一枚あれば見えそうではある。手鏡か何か、部屋に取りに戻ろうか。でももう服も脱いでしまったしな。
「おばんです! グランツ! わひゃっ」
「あれっ?」
脱衣所のドアを勢いよく開けて、デグダスが入ってきたかと思ったらすぐに回れ右をして出ていった。
ドアの上の部分のすりガラスに、向こう側にいるキミの頭がぼんやり透けて見えている。赤毛の後ろ髪だ。あっちを向いて、モジモジしているらしい。
「どうした、デグダス? 風呂に入るんじゃないか?」
「うん!? あっ、そうか。お風呂だったかぁ」
「あははっ。どんなうっかりをしていたんだ?」
「それはその」
おれに呼ばれてもう一度脱衣所の中に入ってくる。少し肌寒い夜だが、こうして狭い部屋にキミと一緒に入っているだけで、かなり体感温度が上がる気がする。やっぱりキミの体温が高いせいだろうな。
いつもそう、だけど今は更に。キミが頬を真っ赤にしている。
「エッチな瞬間を見てしまった! と申し訳なく思って、だな」
「ん? 鏡を見てただけだぜ」
「鏡?」
「そう、この、このあたりがどうなってるか気になってさ」
後ろを向いて髪をたくし上げて、その部分を指でなぞって指し示す。
といっても、わざわざ見せなくったってキミは昨晩見たはずだ。キミが付けたんだから。
「ウワッ!」
ところがキミにとっては意外だったようで、またびっくりして小さく叫んだあと、大きな手でそっとおれのうなじを包み込んだ。
「み、見られたかな!? 誰かに見られてしまったか!?」
「いや、おれはいつもスカーフを巻いているからな。そういうわけじゃないんだ」
「そ、そうか。おまえがスカーフを巻いていてよかった。ウウン、そうじゃない。ご不便をおかけしてたいへんもうしわけない。痛くはないか? スカーフを巻いておこう」
「今から風呂に入るってのに、それはいくらキミの提案でも聞けないな」
「あ! うん、そうか。ともかく、グランツのここは誰にも見られないか。見られていないか。ふう」
「んん、でも困ってるんだ。自分でも見えないから」
「えっ?」
「さっきから鏡の前でいろいろ試してるんだが」
「んむ、むむむむ……」
首筋に当てられた手の力が戸惑い気味に緩んだ。振り向いたら、キミはなんともいえない顔で唸っている。
「なあ、どうせなら前からやってくれないか?」
「前からって、おまえ」
「首じゃなくてもいい。このへんとか、ガブッと」
「そんな! だってわざとわけじゃないんだ。そのう、ちょっと夢中になりすぎてわけがわからなくなってしまってな。だからとても反省していて」
「ダメか? ンン、じゃあしてくれないならおれがキミを噛む」
「えええっ。おれはグランツに噛まれてもかまわないのですけれども」
「そうか、それなら……キミが噛んでくれないならおれも噛まない。キミが噛んでくれるならおれもキミを噛む」
「む? むむむっ? どういうことだ? つまり、えーと」
「ほら、ここ」
「そこ?」
自分の鎖骨を指でトントンと叩くと、首を傾げたキミがじっとそこを見つめてくる。だんだん顔が近づいてくる。あ、これは言ってるおれにもどういうことだかよくわからないけど、うまく行きそうだ。