ちょっとお得 いつもの通りのごきげんな朝だが、毎日はいつも同じではない。今日はおれが朝の当番。ばっちりおいしいごはんとお味噌汁を準備して、まだお布団の中の家族たちをお越しに回るのが当番の日の日課である。
ロックとロッタナの部屋を覗いたら、もうロッタナは起きて朝の準備をしていて、おれと目が合うと実に頼もしく大きな声で「デグダスにーちゃん、おはよう!」を告げ、そのまま力強くロックを叩き起こし始めた。
なんと頼もしいお姉ちゃんだ。いいやロッタナは一番下の妹だ。しかし立派に成長し、お姉ちゃん的なそんなお年頃に差し掛かっている……ということなのだ。
ここはロッタナに任せよう。ロッタナは実に頼もしいが、ロックが目覚めるのにはまだ時間がかかりそうである。ロッタナが叩けば叩くほど、ロックはお布団の中に潜り込んでいっている。すさまじい攻防だ。この戦いの邪魔はできない!
そしてもうひとり、起こさなければいけない家族がいる。おれの毎朝のごきげん。今一度おれたちの寝室に戻って、ベッドの中をそっと覗き込む。
毎日同じだけど、毎日違ってびっくりする。昨日の朝もこんなにかわいかったっけな? いやそれだけじゃないぞ。キレイだし男前だし、それでいてほっぺたは少しぷくっとしている。朝の顔だ。朝のグランツは、ぷっくりつやつやしている。昨日の夜と違って見えて、なんとも不思議。このあたりとか。
お布団からお行儀よく出ているグランツの顔を、人差し指でちょいちょいと触ってみた。お布団が小さく揺れる。小さな笑い声が喉からこぼれた。……これは、起きているな? 目は閉じているけれども!
「なぁ、デグダス」
ようし、びっくりさせちゃおう!
「んむっ」
あれ? いまなにか言ったか? びっくりさせようと思って勢いよくキスしたら、ちょっと乱暴になってしまった。合わせた唇の奥でグランツが唸っている。痛かったり苦しかったりしていないかな。それとも寝言だったのかな?
ちょっと考えて、やっぱり離れて様子を見ようかと思ったら、するりと伸びてきた腕がおれの首にきゅっと抱きついた。
そんなことをされたら調子乗ってしまう。困った困った。なんて思いながらちゅーっと、延長。一体何が困ってしまうのかというと、グランツのお口の中はやわらかくておいしいなあ、と思っていると、そういえば今日の朝ごはんもやわらかくおいしく炊けたなぁ、ということを思い出し、早くみんなに食べてもらう使命にも駆られるのである。
しかしだ、そうではあるものの。
「ぷはっ。ははっ、デグダス、おはよう。今日は大胆だな」
「ううむ。ふう。いつもおまえがキスをしてくれないと起きないなんて言うものだからな、今日は先手を打ったのだ!」
「あっはっはっ、そういうことか。それじゃあもう起きるしかないか」
「む。いいのか?」
「うん?」
お布団の中のグランツが不思議そうにおれを見上げた。しかしニコニコである。ごきげんだ。しかしおれはちょっと、どうしてか? 残念な気持ち。
そうか。おれが先手を打ってしまったから、グランツからキスをねだられるというごきげんな日課がなくなってしまったのか。うっかりしてしまった……。しょんぼりだ。
「デグダス? もう一回か?」
「お!」
やった! ニコニコうれしそうなグランツに、再度がばっと抱きついてキスをする。二回目だ!
今朝は二回もキスをしてしまった。ちょっと得をしてしまったな。