"くらやみ"「そこっ! 斜め二歩前に石がある! 要注意だ!」
「右かな? キミの方に避けたら……わっ。ふふっ、この温かい岩みたいなのはキミか」
「そう、間違いなくこのデグダスだ! いまのように、おれの方に来るようにすれば安全だ」
「ああ、やっぱりキミは頼りになる」
「おれは百人乗っても大丈夫な男だ!」
むふん、とデグダスの鼻が鳴ったのが、頭の上から聞こえた。凄いな、目を開くことができなくても、キミが傍にいるんだという安心感がある。このまま何も見えなくなっても、キミさえいれば困ることも何もなさそうだ。
「おれの他にキミの上に乗る奴なんか居るのか?」
「うん? いや乗るというのは例え話で……ロックたちももう肩車で喜ぶようなお年頃でもなくなってしまったし……」
「ときどきおれが上に乗るじゃないか。ベッド上で」
「んんん? 言われてみればおまえはときに不思議な寝相をするな」
「ふっふっふっふっふ」
「今日はまたグランツさんと手をつないじゃってどうしたの」
「ム、その声はロッタナ!」
「ロックの声だと思うぜ。おれからは見えないけど」
「あ! 本当だ」
いつもの……とため息をつくのも聞こえた。聞き慣れた声だ。
ロックがここに居るってことは、いつの間にかビレッジ近くまで戻ってきたということらしい。となると錬金術師の店までもうすぐか。ちょっともったいない気分もしないではない。
「別にいいけどさ。グランツさん、目がどうかしたの?」
「一時的に開かなくなってしまったんだ。洞窟の中で、墨を吐くウミウシの攻撃をうっかり真正面から食らっちまってな。でもデグダスが居てくれたから助かったよ」
「おれがちゃんと手をつないでグランツを誘導したからな。あっ、そこにも小さな石が!」
「どこだ?」
「うーん、ウワッ」
おれの手を握っていたデグダスの手に、急にぎゅっと力が込められる。そして強く引っ張られる、が、なんとか踏ん張った。
目が見えなくても何が起こったのかしっかりわかってしまった。
「あっはっはっはっは!」
「兄ちゃんが躓いてどうするの!?」
「危ないところだった! グランツが引っ張ってくれてとても助かったぞ。このあたりはまだまだ危険がいっぱいだ!」
「あははは、おれたちは無事に帰れるかな?」
「うむむ。あっそうだ、抱っこしようか?」
「いいのかい?」
キミがぱっと両手を開いて待ち構えている。多分きっとそんな気がする。
「いやいやそれで兄ちゃんが転んだらグランツさんを巻き込むだけでしょ。もうしょうがないなー、おれも一緒に帰るよ」
「かたじけない!」
「でも恥ずかしいから兄ちゃんとグランツさんもうちょっと距離を……無理か」
「離れたらグランツが危ないじゃないか」
「はいはい」