はずかしい寝言 ばたばたと階段を登ってくる音が聞こえる。もうそんな時間か。もうちょっと、眠っていたい。そんな事を考えているうちに、また意識がふっとまどろみの中に飛んでいく。
かと思うと、ドアが開く音。再び半分、目が覚める。まだ半分。開いたドアからごきげんな足音のキミと、できたての朝食の匂いが入ってきた。
いい匂いだ。キミが大きな手でこねたパンが焼ける匂い。
「……おいしそう」
少し起きる気になってきた。でもまだ意識が、半分……。
「グランツ!」
「ん」
キミの嬉しそうな声がすぐ近くで聞こえて、反射的に目が開いた。
「おはよう!」
太陽のような笑顔を浮かべたキミが、おれの顔を覗き込んでいる。
なんでここにキミが? そうだ、さっきキミがおれを起こしに部屋に入ってきたのは、わかっていたはずだったのに! すっかり寝ぼけてしまっていた!
おれは今、寝ぼけて変なことを言った気がする。気のせいか?
「ムッフッフッフ。今日の朝ごはんはなんと……おいしいぞ!」
「あっ、でっ、デグダス!」
気のせいじゃあ、ない!
「かわいい寝言だったなぁ」
「聞いていたのか!」
おれは慌ててベッドから起き上がる。勢い余って、キミの腕の中まで飛び込んだ。
いや、これもわざとじゃないんだ。まだ寝ぼけているだけなんだ。そうじゃないとしたら、キミがおれを抱き寄せたのか。
まさか! 寝起きにそんなに甘やかされていいんだろうか?
「その、もうすっかり腹が減っていてさ。昨日の仕事がいつもより疲れたせいかな。食いしん坊みたいで恥ずかしい」
「おれはおまえの食いしん坊が大好きだぞ。たくさん食べて今日も元気いっぱいに採掘だ!」
「うん……そうだな。キミに置いて行かれないようにしっかり食って体力を付けておかないとな」
「おれがおまえを置いていくわけがないだろう。あ、しかしこのままだと焼き立てのパンは逃げていってしまうぞ。普通のパンになる!」
「あっはっはっは。わかった、ちゃんと起きるよ」
腕の中でぐりぐりと頭を撫でられる。甘やかされている……。起きるとは言ったけど、これじゃ全く、ここから動き出せそうにない。