手のひらの感触 不意にランプの火が消えた。途端にあたりは真っ暗になる。あいにく今日は月や星もない夜だ。夜目が利く採掘師にとっては、まったく何も見えないという程でもないが――。
「うーんどうしようか……一度、キャンプに燃料を取りに戻るか」
「頼んでもいいか?」
「もちろんだとも」
燃料切れになったランプの中を覗き込んでいたデグダスが、闇の中で力強くうなずいた。
こんなタイミングで燃料切れとは、準備不足だな。キャンプに置いてきた大荷物には追加の燃料を入れてきてはいるが、うかつだった。
「あれ? ということは、グランツはここに残るのか?」
「キミの方が夜目が効くし、足手まといになっちゃ悪いからさ」
「そんなことあるものか」
すっとこちらに差し出されたキミの手。黒っぽい茶色の手袋をしているが、不思議とその輪郭は暗い中でもよく見える。いや、おれがその手のことを見つめすぎているせいか。
「一人でこんなところに残ってたら心配だ。モンスターが出るかも知れん」
「キャンプからそんなに離れてないだろう? それにおれはこの辺のモンスターには負けないぜ。このまま採掘を続けて待ってるさ」
「灯りもないのにピッケルを振るっては危険だ」
真剣に諭すような、叱責するような声。まっすぐに、おれを見ている。こんなに暗いのに、どうしてキミの目には光が宿っているように見えるんだろう。
「わかった」
おとなしくうなずいて、差し出されたその手をそっと握る。
キミと手を繋ぐってのは、なんとなく緊張する。今更、かもしれないが。採掘用の分厚い手袋二枚分を隔てて、絡めた指と手のひらにキミの存在を感じる。体温とか、鼓動とか、皮膚が擦れ合うのと同じように。
こんなふうに意識してるのは、おれだけかな。
「よし、行こう」
キミがにこっと笑っておれの手を引いた。握る力も少し強くなる。ぎゅっと、力強くて熱が伝わってくるような。多分気のせいだ。手袋越しにそこまで体温が伝わるわけがないし。
灯りのない夜で良かった。きっと顔が真っ赤になってしまっている。キャンプに戻って、ランプに燃料を入れるまでに平常心に戻らないと。
落ち着け落ち着け、と何度か頭で繰り返してみたが、ちっとも落ち着けないどころか心臓がドキドキし始めた! むしろ意識はすぐにキミの手の感触に集中してしまう。
まいったな。キャンプは本当にすぐそこなんだ。