チョコ禁止 買い出しにマーケットへ向かっている最中から明らかにしょぼんとして落ち込んでいる。大きな背中が縮こまって。隣を歩くおれとしては、夕方になっても眩しい夏の日差しを頼もしく遮ってくれるキミの影が小さくなってしまっているのは実に残念だ。
でも男らしい太い眉をしょんぼりと下げているキミの姿はとてもかわいい。
「さっき出かけるときに何か問題でも起こったのか?」
「ううむ……ロッタナに怒られてしまった。今日の晩ごはんはチョコレートは禁止だと」
「晩ごはんにチョコレート? あはははっ、それは確かに、ちょっと難しい問題だな? おれもロッタナに賛成だ」
「ムム。いや違う間違えた! 禁止されたのは明日のおやつのことだ! 今日の採掘のおやつにチョコレートを持たせていたら、おやつの時間にはすっかり解けてしまっていたらしくてな」
「あっはっはっはっは。そうか、ロッタナは今日は海岸の方に向かっていたからな。昼間は随分暑かったんだろう」
「それで夏の間はチョコレート禁止を言い渡されたんだ。はぁあ」
頭の上から降ってくる大きなため息。歩きながら見上げた顔はもちろんまだしょんぼりしている。が、どこか楽しそうでもある。毎日こんなちょっとした事件があって、毎日そんな事件で笑い合っている。明日のおやつはチョコがダメなら一体何にしよか? とキミは悩んでいる顔だ。
「キミはそんなにチョコが食べたかったのか?」
「ウム。だってそうだろう、今朝はロッタナとロックにチョコレートを持たせたら、おれたちの分はなくなってしまって、そうなるとどうも一日中チョコレートが恋しくなって、そんな具合だ」
「ふふ、無いとなると食べたくなる、か」
「そうなんだ。でも買ってくるなと言われてしまったし」
「バレないようにこっそり買って、帰り道で食べてしまおうか」
「え! それは禁断の……! 晩ごはんの前のおやつ……!?」
「包み紙が見つからなければ完全犯罪だ」
「……ウッ。だめだだめだ! 悪いことはできない。それにおれたちだけこっそり食べちゃうのはもっといけない」
「じゃあ、夕食後のデザートとして買ってくるってのは?」
「……なんだって……!?」
大きく開いた目に夕日の眩しいオレンジ色が映り込んで生き生きと輝いている。口も大きく開いて、深く深呼吸。
「グランツ、それはすごいアイディアだ」
「あっはははははは! キミのためだからな!」
まったくキミはいつでも最高だ。キミの隣にいるとなんでも輝いて見える。