年越し「なあ、もうここにあるの持ってっちゃっていいかな?」
「おう! ありがとう! ……あっ」
「どうした?」
こたつの上にどんぶり四つを並べて台所を振り返ると、エプロン姿のキミが大慌てでネギを手に追いかけてくる。「あっ」の意味がすぐにわかって、たまらず吹き出した。
「あっはっはっはっは! まだ具が足りなかったか!」
温かい部屋に温かい蕎麦の湯気、おいしい匂い、いつものキミのうっかりが揃っている。笑っているのはもちろんおれだけじゃなくてロックとロッタナもだ。こたつに入った二人は少し眠たそうだけど。
「やはり彩りはな、大切だからな……」
「でもネギってちょっとだけだし味がしないじゃん」
「しかし栄養たっぷりだぞ! しっかり食べて来年も元気に過ごそう!」
「そうだよロックにーちゃん、好き嫌いなんて子供っぽーい」
「好き嫌いで言ったわけじゃないよ!」
「あははは」
濃い緑色の新鮮なネギを、キミは料理用のハサミでちょんちょんと小さく切ってそばの上に散らしてく。キミの手は大きすぎて、細いネギを小さく刻むのは大変そうだが、そばが伸びるのを心配するほどには手間はかからない。
温かいスープの香りとそこに浮かんだこんがり焼き目の鴨肉の香ばしさに、ネギの緑色とさわやかな香りが実に食欲をそそる。やっぱりキミの言う通り、この最後の彩りが大切だ。
「二人とも、食べ終わったらすぐ寝ような」
「えー! 年を越すまで絶対起きてる!」
「と言いつつロッタナはもう眠たそうじゃないか?」
「おれは平気。夜ふかしできないほど子供じゃないし」
「いやいや明日は初日の出を見に行くんだぞ。早寝、そして早起き! これもまた大切だ!」
「だってにーちゃんたちは起きてるんでしょ」
「おれとデグダスは洗い物しなきゃいけないからさ。明日のおせちの準備もな。起きてるなら手伝ってくれるかい?」
「やっぱ眠たくなってきたかもしんない」
「ロックにーちゃんてば、もう!」
なんて言いながらも、そばを食べ終わった二人はもう限界のようだ。こたつで眠りこけてしまう前にお布団に入らなければ! と言いつつキミは二人の部屋に布団を敷きに行った。