大事な写真 キミの太い指がスマホの画面の上をちょん、ちょん、とつっついてるのを見ているだけで、とても幸せな気分になる。
「うーん、この写真は……そうだ、先週の夜!」
「真っ白じゃないか。一体何を撮ろうとしたんだ?」
「これはだな、スマホをうっかりベッドの上に落としたときの写真だ!」
「あっはっはっは、よくそんなことを覚えているな! 寝るときかい? それとも起きたとき?」
「寝る前だ。手の上からこうツルリとな」
その瞬間の再現なのか、手に持ったスマホを落とす真似をする。で、やっぱり本当に落としそうになってお手玉した。
「おっとっとっとっと。ふう、ひやっとした。それでな、この次の写真が」
「今の、消さないのかい?」
「む? 消さないぞ。だっておまえが写っていたじゃないか」
「え?」
「ほらほら」
キミの指がまた画面をちょん、とつつく。そうしたら今度は違う写真が画面に表示されて、キミは「違う違う」と首をひねりながらどうにかさっきの白い写真を画面に戻した。
「ほらここ。こっちにおまえが寝ている」
「……あ、本当だ」
画面いっぱいの白いシーツの端の方、しかも波打って折り重なっている隙間に、どうやらおれの青い髪の先がちらりと写り込んでいる。つまりこの隣でおれが寝ているらしい。
「よくこんなのに気が付いたな」
「だって本当はおまえの寝顔を撮りたかったんだもの。しかしスマホをツルッとやってしまって……しかもそれでおまえを起こしてしまった。こっそりのつもりがうっかりだったのだ! だからいつの写真かも覚えているし、もちろん消さないで大事にとってある」
「あっはっは、そういうことか……。でもいつかちゃんとした寝顔を撮って欲しい……いや、寝顔は恥ずかしいな」
「では今日の夜撮ろう!」
「……キミに先に寝てもらえばいいのか」
「それは困る! 実に困る! ううーむ、グランツは実に策士……だ!」