台所の発明 狭い台所で背中を丸めて、小さな緑の花の芽を相手に悪戦苦闘している。いや、台所の広さは標準的だから、実際はキミの背中が大きすぎるんだ。どっちにしろ窮屈そうで、たまらなく愛しい。
そんなことを考えてのんびりと眺めている場合じゃないか。
「デグダス、こっちは終わったぜ。手伝おうか」
「ムムム。ご心配には及ばない! こちらも後すこしでおしまいだ」
「そうは見えないけどな」
大きな背中越しに手元を覗き込むと、キミはその大きな背中をさらに丸くして隠そうとする。といってもキミはデカすぎて限度があるから、その腕に抱えたボウルの中身はしっかり見えてる。
淡い緑の花の芽が、まだ沢山。土と草の瑞々しい香りがする。
「さっきみたいにやり方を教えてくれよ。こいつはどうやって下ごしらえするんだ?」
「これはなぁ、土の付いたがくの部分をこう、指でちぎって……あいたっ!」
大きな指でまごまごしながらつぼみの下の部分を剥がしてちぎる。なぜだか危なっかしいし、痛いって?
「大丈夫かい?」
「やっぱりこれはおれがやる。この草は、茎のところに棘があってたいへんに危ない!」
「そういうことか。道理でキミの指先が赤くなってしまっていたんだな」
「怪我をするほどでもないんだがな。しかしおれの皮は厚いので心配はいらない。お顔の皮が厚いとよく言うだろう?」
「それはそういう意味じゃないし、キミにそんなこと言うヤツなんかどこにもいないぜ」
「ウム?」
首をひねるキミの手にそっと触れさせてもらって、赤くなった指の先を指の腹で撫でる。棘が残っている感触はないから一安心だ。だけど少し熱を持っている。
「やっぱりおれが続きをやるよ。そこの棚にゴム手袋もあるしな」
「手袋……!? この下ごしらえに手袋を……!? すごいぞそれは発明だ!」
「ふっふっふっふ、こういうときのために買っておいたものだぜ。じゃ、キミはこの可哀想な指を冷たい水で洗って少し休ませておいてくれ」
「なあグランツ、もう一つ発明があるぞ。おれは気付いてしまった! グランツの指からキュアエイドが出ているのかもしれない! こうしているとだんだん痛みが治まってきたぞ! 大発明だ!」
「ふっ、あっはっはっは! でもこれ、きっとキミにしか効かないんだ。だから残念だけど、発明にはならないかな?」
「そうなのか! おれにしか効かないのか。……うん、そいつはよかった」
キミは満足そうにウンウンと頷く。キミがこの冗談をずっと真に受けてくれてたら、これから事あるごとにキミの身体を触れるな……と悪いことを考えた。