あと半分「寝てるとスゲーマヌケ面だなァ。起きててもアホみてェな顔だけど!」
「起こすなよ。せっかく円城寺さんがゆっくり寝坊してんだ。久しぶりに完全にオフの日だっつって……」
「メシはァ?」
「今から作る。手伝え」
「チッ」
明らかに舌打ちをしてから、ソイツはやっと円城寺さんの隣から動いた。しかし腹減ってる割には素直に台所に立ってるから、機嫌がいいらしい。
「手ぇ洗えよ。そんでそこの野菜切るのと鍋に水」
「米食いてぇ」
「だから今から……あ。スイッチ入れんの忘れてた」
「ハァ? じゃメシまで当分かかるじゃねーか!」
「その間になんか他のもの作っとけばいいだろ」
米は昨日の夜に円城寺さんが研いでたから、炊飯器のスイッチを入れるだけでいい。家庭用にしてはデカいその炊飯器には早炊きって書いてあるボタンも付いてるけど、円城寺さんがそれするとウマくないって言うから使わないことにしている。
で、そうすると炊きあがるまでに一時間ぐらいかかる。予定が狂った。
「オイ、手伝うんじゃなかったのか」
「だって時間かかンだろ」
コイツ、早々に諦めてまた布団に戻ろうとしてる。つーかコイツが飯炊くのに時間かかるって理解してんのが驚きだが……。円城寺さんの料理を手伝わされてるうちに覚えたんだろうか。
「ってオマエ、何やってんだ!」
「あ?」
コイツ、油断も隙もねぇ! 単に二度寝するつもりかと思ったら、寝てる円城寺さんの上にまたがって、何故かキスをし始めた。
キスっつーか……コイツのキス、下手くそだから、なんか野生の動物がその図体に不釣り合いなデカすぎる獲物を無理やり食おうとして四苦八苦してるみたいな、どっから食えばいいかわかんねーって感じで角度を変えながら噛み付いたり、ひたすら舐め回したり、を繰り返す。
「円城寺さんを起こすなって言っただろ!」
んなことしたら円城寺さんが起きちまう。っつーのもあるけど、正直純粋に腹が立つ。俺は円城寺さんの睡眠を妨害してまでそんなことはしねえ。……我慢できる。
「んん、……漣、あと……三十分……」
めんどくさそうに頭を上げたソイツの後頭部を、まだ寝ぼけてる円城寺さんの手が掴んだ。まだキスしようとしてたソイツはそのまま引き剥がされて、隣の布団に転がされる。
「チビが騒ぐかららーめん屋起きちまったじゃねーか」
「どう考えてもオマエのせいだろ! どういうつもりだ!」
「メシねーし暇」
「……このっ」
喧嘩だ。が、アイツは円城寺さんの向こう側の布団に入ってしまった。眠そうな円成寺さんを挟んで喧嘩するのも……。
「まあまあ……漣も、二度寝しよう。な?」
「フン」
そんなことやってるうちに、ソイツは円城寺さんに寝かしつけられてあっという間に寝た。コイツ……チョロすぎる。
「タケル」
そして円城寺さんは、ソイツとは反対側の布団を軽く叩きながら俺を呼んだ。
眠たそうな目の円城寺さんと、やけに晴れた休日の朝。誘惑は、充分だ。
布団の中は、円城寺さんの体温であたたかい。俺の頭、撫でてくる手も。
「……メシ、円城寺さんが起きる前に作っとこうと思ったんだ。まだ何もしてねーけど……。米のスイッチは今押した」
「じゃああと三十分は寝れるな」
俺の話に笑って相槌を打ちながら、また目を閉じて眠ってしまった。さっきまでアイツがあんなに騒いでたのに……やっぱ、よっぽど疲れが溜まってんだろう。
仰向けで規則正しい寝息を立てる円城寺さんの顔、見ると口の回りにアイツの噛み跡があって、濡れてる。腹立つ。……というか、俺ならせめて、起こさないようにする。アイツみたいに寝てる相手の上に乗んのも、どうかと思うし。
上に乗んなくても、こうやって……横から腕付いて。これなら、濡れてるとこもう一度濡らしたとしても、バレねぇし、起こさねえよな。