レイチュリ 恋のフレーバー 人通りの多いショッピングモールで知った顔を見つけて気分が上向いた。
「レイシオ!」
本屋を出てきたばかりの気難しい表情の美貌に向けて声を飛ばす。呼ばれた男は辺りを見回して、軽く手を振るこちらを見つけると眉を顰めた。歩み寄ってくれるわけもない、けれど無視をしようともしない優しい友人だ。
「奇遇だねぇ! 君もオフ?」
問いかけても眉を顰めたままこちらの全身をゆっくり眺めるレイシオ。
「あれ? 誰だか分かってない? アベンチュリンだよ」
「その軽薄な声で分かった。無駄に着飾らない君を初めて見た」
サングラスを外してタネ明かしをするようにおどけて見せればレイシオは呆れたように息を吐く。
普段なら『無駄』と称されるほど身につけている装飾品も今日は腕時計だけと最低限で、髪もほとんどセットしていない。服装も黒デニムにカットソーだ。街に溶け込むならこんなものだろう。
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