本編から数年後。就職した夕介。
丁夕介はカッターを握り締める。刃渡約十センチメートル。十分人を殺し得る長さだ。この狭い五畳半のワンルームに引っ越した時は、まさかこのカッターで他人の命を奪うことになるとは思ってもみなかった。
夕介は人を殺したことがある。が、彼はその時のことをあまりよく覚えていない。どうやら夕介には別の人格があり、その人格が殺人を行ったらしい、と保護観察官には教えてもらった。
加えて、裁判の直前まで夕介は自分の別の人格を認めておらず、全て自分のしたことだと主張していた、そして裁判の途中で別の人格が顔を出し、夕介ではなく自分が殺人を犯したと自供を始めた、と監察官は言っていた。
夕介はその事件のほとんどを記憶していない。気がつくと自分を苦しめていた全ての要因が消えていて、まるで神様が気まぐれに自分を救ってくれたみたいだ、と思った。
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