始まりの音昔から感情というものに乏しかった。
およそ子供らしくない態度に動かない表情筋。
可愛げの無い子供だったのであろう、親ですら困惑したような態度をよく見せた。
母の作った食事を食べていると「美味しくないの?」と言われた。律陽には十分美味しく感じられていた。
遊び場で同年代の子供と混ざって遊んでいると大人に「楽しくない?」と聞かれた。すごく楽しかったわけではないが、特段つまらなかった訳でもなかった。
何をしていても、律陽の感情は他人に伝わらなかった。
その結果、周囲はらしくない子供だと遠ざけた。
だが兄だけは自分の感情を読み取ってくれた。
乏しいだけで無いわけではない律陽の訴えを兄である音秀は汲み取ってくれた。
だから、父よりも母よりも、兄が好きであった。
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