【お気に入り】──ガキが飲む酒じゃねぇか。明司さんは甘党かい?
酒に興味のないオレは、アイツが頼んだ酒が安物で笑われたのを知って歯を食いしばる。
”梵天”───ひいてはマイキーの顔に泥塗ってンじゃねぇよ。クソが。
まだガキが多い”梵天”は交渉ごとには分が悪い。
回せる人材が限られる。それでコイツの出番だった。
一番歳を食っていて相談役というポジション。
実際はハリボテだ。いつ露見するのか、隣でヒヤヒヤしていた。
粗相をするようなら、ここでまとめてスクラップにすればいい。そう思って耐える。
「安い酒だが良い酒ですよ。オレはこの酒が気に入ってますんで」
「はははッもっと良い酒を知った方がいいぜ。明司さんよォ」
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スーツを着ていても小物を寄越した時点でオレ達が舐められているのは明白だった。
周りの下っ端も族上がりの若い顔ぶれ。正直こちらの意見を聞き入れる気も無いだろう。
こんなところで時間を浪費する? だったらチンピラ共を刻んで組の前に捨てる方がマシだ。
ピリついたオレの気配を悟ったのか、アイツは笑いながら相手のグラスに酒を注ごうとした。腰抜けめ。
そう思っていた。オレも、オレの部下も、チンピラも──
相手のグラスに目もくれず、武臣はウイスキーの酒瓶を握ると真っ直ぐ突き出して相手の鼻を折った。
「! ! テメ──ッ」
「吉岡さん。ウチはなぁ──」
獲物を抜いて飛びかかりそうな下っ端を無視して武臣は言葉を続ける。
「お願いしてンじゃねぇ。命令してンだ」
「ヴッ、あ、ぁッ」
更に殴り倒した男に無表情でウイスキーを注ぐ。その異様さに室内は静まった。
酒瓶を空にした武臣は、新しい煙草を取り出して咥えながらオレに声を掛ける。
「三途、ウイスキーは火を点けると青色に燃えてキレーだぜ。見とけよ」
煙草に火を点け終わったジッポがゆっくりと酒を浴びた男に近づく。
誰も止めに入らない。声も上げない。
「やめっ、やめろ! 分かった! 分かったから!」
「それじゃあ、さっきの件を組長さんに通してもらおうか」
「分かった! 通す! 通すからやめてくれ!」
哀願を聞き届けた武臣はジッポを懐にしまう。
不敵な笑みを浮かべる軍神がそこにいた。
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アジトに戻る車の中で煙草を燻らせながら武臣はオレの質問に答える。
「よかったのか? 喧嘩売って。ショボくても古い組なンだろ?」
「まだ喧嘩じゃねぇ。向こうはコッチを舐めてるから安い男を寄越してきたが、次から本腰入れてお話してくれるさ」
「フーン」
「これからが本番だぜ。気を引き締めろよ」
「マイキーに楯突くなら殺すだけだ」
「まだって言っただろ。向こうから始めてもらわなきゃ困るんでな」
呆れたように煙を吐き出した武臣は、思い出したように話を続けた。
「三途、酒の席には酒瓶を用意しとけ。いざって時は刀や銃を抜くより早く相手を殴れる」
「飲んでよし、殴ってよし、火を点けてよし───そんな”お気に入り”を」
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軍神に夢みてる。かっこいい臣がほしい。ください。どうか!!!!
ンズの心の中でクソ、コイツ、アイツから武臣に呼び方変わって欲しい(願望)
現実では明司って呼ぶ。ハイになるとタケ兄呼び(幻覚)
ウイスキーを丸い氷のグラスでカラコロ…している臣が見たいので(欲望に忠実)
臣は飲んだくれ時代に殴られたことがあるから便利だって知っている(情けない学習)
啖呵切った内心、震えててほしい。
私はジャック・ダ○エルの便利な利用方法をパニッシャーさんに教えてもらった。
飲んでよし・殴ってよし・火を点けてよし!(よくない)