【古傷に触れる】──雨の日は古傷が疼くと武臣は言っていた。
ジワジワと浸食する痛みはオレも知っている。
特に雨冷えする日は口元が引き攣った。
あの時もこんな痛みを感じていたのだろうか。
それをアイツは拭っていたのか。
顔を近づければ、物憂げな顔は目を閉じて古傷を差し出した。
艶やかに濡れた黒髪を掻き上げて薄くなった傷痕に唇を這わす。
最初は指の腹で触れるだけだった。温めるように撫でるだけ。
驚かれても拒まれなくて、いつしか唇を寄せてもされるがまま。
「っ……、ん…」
オレは震える目蓋を宥めるように何度も舐め上げた。
****
赤く腫れた線を触ってみたかった。
痛みに顔を顰めている兄は怖かった。
いつもより機嫌が悪くてオレに怒りやすかったから。
それでも、触れてみたかった。
ガーゼを取り替える時に覗く、肉が盛り上がって伏せた目に興味が湧いた。
「傷? もうヘーキだ。心配すんな」
「……うん。よかった」
ガーゼが取れて瘡蓋も取れた兄は何でも無さそうにオレに言った。
よかった、と言いながらオレは赤い線から目が離せなかった。
雨の日は嫌いじゃなかった。
外で遊べないけれど、家に兄がいるから。
ただ、そんな日は不機嫌で部屋で寝ていることが多かった。
兄がいて雨が降る日はアイツが時々家に遊びに来た。
マイキー達がいない時もある。
それでもオレ達に菓子をくれるから妹は喜んでいた。
オレは昔から嫌だった。
アイツは当然のように兄の部屋に入っていく。
妹やマイキーのように二人の間に飛び込むことは出来なかった。
オレが出来ることは膝を抱えて二人が出て来るのを待つことだけ。
「雨男~古傷はどうだ?」
「…痛ぇに決まってンだろ」
「だろうな。見せて」
「はァ……痛ぇンだからな」
「分かってる。少しだけ──」
「ッ、ン、…ぁ……」
あの日、雨音に消えそうな声を盗み聞きいた日から思っていた。
オレもあの傷に触れたかった────アイツのように。
※※※※
臣の古傷に触れるハルチ。
瘡蓋に爪痕を立てたい残酷さと痛みを拭ってあげたいという献身さ。
そしてオレの傷にも触れてよ、と思っているンズ。
その気持ちに辿り着けない臣でも美味しいし、指で触れるくらいなら無意識でしちゃう臣もいい。
ちょっと時間軸がふわふわ 臣もっと情報くれーーー!
もう家を出てるけど、時々実家で面倒をみる(みるとは言ってない)臣。
性的に触りたいというよりは兄貴の傷を自分も触りたい、触れる特別な(許された)存在になりたい感じ。それがこじれてこうなった。ぺろぺろ。
真への好感度が低めハルチ。優しいけど兄貴をとった人って印象がある(妄想)
目蓋を閉じた臣にどうしてオレじゃないの?どうしてオレじゃダメなの?と幼い心が騒ぐけれど、今触ってるのはオレだろ!と言えない。(この話のンズは)
閉じた目蓋の向こうにいるアイツを知っていても、目を開けて見つめ返されることを恐れている。
ンズという理想ではなくハルチという現実を映されてしまうから。