【オールアウト】「ン、──ッ、ぁ、あッ」
「ホラ、もっと足開いて……」
「む、りィ、ヒッ!」
「無理じゃねェ。出来ンだろ?」
「、う゛~~~ッ」
静かなジムスタジオに荒い息と声が響く。
無理矢理、身体の自由を奪われて情けない声を出してしまう。激しい動きはないのに、じっとりと肌が汗ばんでいく。
最初は首筋に当たる髪の毛がくすぐったくて身を捩っていたが、それすら気にならないほど自分は追い詰められていた───
「いででで! もう無理! 押すな!」
「オマエ、昔っから身体硬すぎ。そんなんで始めたら怪我すンぞ」
「それはオレも思うけどっ千切れる! 何かの筋肉が千切れる!」
「肉離れ一番ありえそー」
「ありえそー、じゃ、ねぇ! ~~~ッ」
前屈するオレの背中にのし掛かりながら、やる気のなさそうな声でストレッチを促すこの男は今牛若狭。
妹から○ーチューバー活動の舵取りを任され、何とか動画の再生数が稼げた頃に深夜の閉じたジムまでオレを呼び出した男。
プロデューサーになるのなら体力をつけろ、と触り心地の好い運動着を渡され、あれよあれよとマットの上に転がされる。
そりゃオレも若くはないが、肉体労働で体力がないワケじゃない。それを言ったが、安いチューハイで弛んだ腹にパンチを喰らって黙らされた。
曰く、オマエの妹は動き回るから、追いかける体力はあればあるほどいいらしい。そう言われると逃げられない。
まずはその情けねェ腹をどうにかすンぞ、と筋トレが始まった。──正確には筋トレ前のストレッチだが。
「──よし、まずは腹筋百回」
「はぁ、もう疲れた…」
「何言ってンの。そら、足寄越せ」
揃えた両足の上に座り込んで、しなやかな脚が回されて拘束される。
やるっきゃねぇか。
「腕は頭の後ろに組んで」
「おう」
「背筋曲がりすぎ」
「おう」
「今度は反りすぎ」
「おう」
「ハー、そのまま続けると筋と腰痛めるよ」
「ッ、おう」
ワカが手を伸ばして、オレの胸に掌を押し当てる。
押し当てられた所を意識して腹筋を繰り返すと正しいフォームになったのか、するりと腹筋を撫でられる。
「ッ──!」
「ホラ、ちゃんと呼吸して──」
「ンッ、ハァッ」
「吸って……吐いて……」
肺の膨らみを確認しているのか、上半身を起こすと掌が胸に触れる。
触診のようなソレにむず痒さを覚えるも、使わない筋力を動かすことで精一杯なオレは指摘せずにトレーニングを続けて───
「フッ、ぁ」
「ン、ンッ」
「ペース落ちてンぞー」
触られたからか、意識し始めたからか、乳首がシャツに擦れてむず痒い。
すべすべとした触り心地が、上体を起こす度にオレを苦しめる。
筋トレを手伝っているワカの前で感じるとか変態じゃねぇか。絶対にバレたくない。
噛んだり、吸われたりと散々な扱いを受けたオレの乳首はジワジワとしたこの刺激が物足りず、腰に熱が溜まっていく一方だ。マズイ。非常にマズイ。
「オマエ、乳首痛くねぇの?」
「ッハァ!?」
「こんなに擦れて、膨れ上がってるじゃん」
「ぁんッ! ッ~~~触ンなっ!」
「別におかしくねぇよ。ユニフォームに擦れて痛ぇってヤツ多いし」
「そう、なのか?」
「そう。痛くねェようにシールとか貼ったりするけど、オマエも貼る?」
「……いや、もう少しで終わりだろ? 我慢するさ」
「──へぇ、じゃあ頑張って」
「おう」
ゆるく勃ち上がってしまったが、閉じた足のおかげでまだバレてない…はず。
情けない声が出て息が荒れてるのは腹筋がキツイから。誤魔化せる。大丈夫だ、オレは腹筋をすればいい。
「ラス…トォ! ……ハァ」
「はい、お疲れサン」
───ちゅうっとワカの唇がオレの唇に触れた。顔が近すぎたか!?
「あっ、悪ィ、ワザとじゃ──」
「うん。ご褒美だから心配すんナ」
「は?」
「エロ乳首とチンコ勃たせながら筋トレこなした武臣くんにご褒美♡」
「ハァッ!? ──ッ待て、なン、~~~~ッ♡」
サラサラとした生地越しに白く細い指先が筋をなぞる。痺れた腹筋が勝手にビクつく。
ライトの眩しさで表情が分からない。しかし、押し当てられた硬さがワカの興奮を物語っていた。
****
「武臣、筋トレしてンの?」
「あ~まぁな。体力つけようと思ってよ」
「へ~イイじゃん! アドバイスしてやる!」
「ハハ、ありがとな。じゃあ足を押さえて───」
「アッ武臣! 腹筋の仕方間違ってるぞ! 正しいやり方は──」
千咒から”正しい腹筋”を教授してもらった。足を押さえるのは正しくないらしい。
腕をクロスさせて胸に置き、膝を立てて足裏を壁につけた妹は、起き上がりこぼしのように腹筋を軽々こなしていく。
これが若さか。いや化物だわ、コイツって違う。ソコじゃない。
「”正しい腹筋”は誰に教わったンだ?」
「ベンケイとワカ! ──武臣?」
「………ストレッチしてから始めるわ」
「うん! ストレッチは大事ってワカ達言ってた!」
────あの野郎ッ!!!
※※※※
臣の乳首を開発しすぎて、あるいはその一歩手前で触られるのを拒否されたワカくん(セフレか恋人かはご想像にお任せします)
プロデューサーだか知らんが、まずは体力つけろと臣の筋トレトレーナーに(自称)
回数よりも正しいフォームでするのが大事とさりげなく大胆にボディタッチする抜け目のない男。
U○IQLOエ○リズムなど、ちゅるんちゅるんの生地はこすれるとヤバイと情報を得たワカ。臣に買い与える。
背筋曲がりすぎ、今度は反りすぎ。そのまますると筋と腰を痛めるぞ、と何食わぬ顔でパイタッチ。
足を押さえられて腹筋する臣、段々感じ始める→ご褒美にキモチイイマッサージしてやるよ→アッ♡♡♡
今後も誰もいないジムのサブスタジオにマット敷いて始める。鏡はありますが窓はないので安心だね!リングがあるメインスタジオは窓張り(と勝手に設定)
ランニングマシンも使いたかったけど、転ぶと危ないので断念。
ワカトレーナーの臣P肉体改造は続くのである。
……しかし、ンジュちゃんによって”正しい筋トレ”を知った臣Pは深夜のジムに殴り込むのであった(愚策)
プロレスが得意なワカには寝技で身長差をモノともせず、臣をイかせてほしいですねぇ(願望じゃん)
♀臣だった場合も身長差が気にならない体位を網羅していそうよな、この男。
タイトルの【オールアウト】はトレーニング用語でトレーニングにより筋力を完全に使い切った状態。全てを出し切ることの意。