【御仏の慈悲】今日も調子が悪かった。最近はツイてねー。
新店のパチンコ帰り、見慣れない路地を歩いていると汚らしい木箱があった。
中を覗けば何てことはない、小さな地蔵があるだけ。
信心深いワケじゃねぇが、唯一の戦利品の菓子を供えてみる。
「何かイイコト、ありますように」
適当に手を合わせて家に帰った。明日には手を合わせたことも忘れているだろう。
***
総長、総長代理、副総長という物騒な肩書きを持つ三人がファミレスで駄弁っていた。
次はどこの族に喧嘩を売るか──ではなく、話題は怪談話のようだ。
「首無しライダーが出たらしいぞ、ケンチン」
「ハァ? …都市伝説のアレか?」
「それそれ」
「えっオバケ出たンすか!?」
「そーみたい。ソイツはさ……」
「いいっすよ! 詳しく説明してくれなくても──」
「いーじゃん。聞いてよ、タケミっち♡」
「力が強い!」
「噂じゃ、こうだ──‥‥」
──ある走り屋がいた。ソイツは族にも入ってなくて一匹狼だったンだと。
スゲぇ速かったらしいぜ。ソイツには誰も追いつけなかったって話だ。
だけど、ソレをよく思ってねぇヤツらもいた。普通じゃぜってー勝てねぇから罠張ったんだって。
コースにピアノ線を張ったんだ。ダセぇよな。
そしてレースが始まって独走状態だったソイツは───
「ピュン! と首が跳ね飛ばされちまった──」
「うわぁああああ!!!」
「ッ、タケミっち声デケーよ!」
「耳が痛ぇ」
「続きがあるんだけど、頭を無くしたソイツは復讐するために夜な夜なXX号線に…」
「もう聞きたくない!」
「頭がねーから復讐相手が分からねぇ。バイクで走ってると突然現れて、追いかけ回されるんだってさ」
「ひぃいい! 大迷惑じゃないっすか!」
総長代理は頭を抱えてしまった。怖い話が苦手なのかもしれない。
そんな姿を気にせず総長と副総長の会話が続く。
「確か、追い越されると不幸に遭う、事故に遭うとか言われてるっけ」
「そうそう。ソイツとシンイチローがレースしたんだって」
「シンイチローくんが?」
「だ、大丈夫だったンすか?」
「大丈夫だから、こうして話してンだろ~」
「いや、知りませんよ!」
「でも首無しライダーに勝つなんて、流石シンイチローくんっすね!」
「ものスゲぇ速さって聞いたが…ライテクで引き離せたのか?」
「急に石が転がってきたんだって」
「石?」
「その石に首無しライダーが躓かなきゃ、負けてたかもしれねぇって言ってた」
***
適当に街を歩いて夜の居場所を探す。前から見慣れた顔がやってきた。
オレに気が付くと、笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「武臣、聞いてくれよ! オレ、県道のXX号線でスゲーヤツとレースしちまった!」
「お前、カタギのくせに野良レースしたのか?」
「不可抗力だって! 突然さぁ──」
「待て待て、話は店に入ってからだ」
興奮した様子の真がオレに話し掛ける。どうやらフラれた愚痴ではないらしい。
今日もパチンコで負けちまったが、面白そうな話が聞けるなら悪くねぇ。
そのまま立ち話をしようとした真の肩を叩いて、いつもの居酒屋に誘導していった。
※※※※
タイムリープがあるなら、オバケもいたってええやろ時空。
お地蔵様にお菓子をお供えしたのは武臣です。数百円ぽっちのお菓子でもこの御利益。
武臣ってどの世界線でも知らない間に難を逃れている気がする(不健全だけど生きてる)
知らないうちに加護が付与されていた真は遠出した帰りに県道XX号線を使ったら、怪異に勝負を挑まれました。
何だぁ? あのライダー頭がねぇ!マジか! 煽ってきやがる……面白ぇ。その勝負、乗った!
マイキーをも凌ぐライテクの持ち主ですが、怪異の理不尽パワーで追い抜かされそうに。
その時、車道に小石が転がる! 首無しライダーは予期せぬ妨害に運転をミスって、真に逃げ切られたとさ。
なお武臣は後日別のパチ屋で負けます。幸せ=金ではないんやで。
タイトルの【御仏の慈悲】は仏様が衆生に対して楽を与え、苦を取り除くこと。
仏様の慈悲は人間の慈悲とは違い、全ての人に平等で永久的に持続する。智慧に裏付けされた慈悲なので、必ず相手を幸せにする。