【消えた男】「今日のアカシちゃんねるは~~コレだッ!」
「廃病院で肝試し~~!!」
「~~クソがッ!」
─センジュちゃん可愛いのう
─開幕罵倒、ありがとうございます
─いつにも増して態度が悪い
─廃病院だからだろ、兄上潔癖くんやぞ
─なるほどね
─テンションひっくww
「今回は武臣もいるぞ!」
「おう。オマエらよろしくな」
─武臣Pおっす
─長男!
─待ってた
─相変わらず面はいいな
廃病院の受付カウンターにノートPCを開いてコメント欄をチェックする。
今日も大勢のリスナーが来ているようだ。
肝試しの様子を映すスマホの映像も問題ない。
「場所が広いから、分担していくぞ!」
「まず、ジブンがしゅじゅちゅ…しゅじゅ、つ室!」
─可愛い
─はい、かわいい
─わかる。言いづらいよね
「ハル兄はレイアン室!」
─ガチな場所じゃん
─怖そう
─眠れる霊にカチコミしにいくんか
「武臣は踊り場のカガミ!」
─踊り場?
─夜の鏡とかめっちゃ怖いヤツ
─階段と階段の間はヤバイって
「春千夜、お前カメラ回ってンだからマスク取れ」
「ウルセー。殺すぞ」
「ハル兄、軍手と保護メガネ」
─完全に輩ww
─ドンキでよく見る
─友人Tの汚部屋掃除企画フル装備再び
─汚部屋はホラースポットだった…?
ハル兄からスマホを受け取って、インカメに手を振る。
スマホからはコメントが見られないが、PC画面にはコメントとスタンプが流れていくのが見えた。
「最初はジブン、次にハル兄、最後は武臣だ!」
「それじゃ、いくよぉ!」
「元気よく突撃していった」
「転ぶなよ」
・・・
「ただいま~何もいなくて残念だったぞ!」
「猫探しに行ったノリで帰ってくるな」
「次はハル兄!」
「………ハァ」
「気をつけてけー」
・・・
「オラ、テメェの番だ」
「汚いドアノブ回せて偉いじゃん!」
「ホラー企画なんだよな? …ま、いってくるか」
「いってらっしゃーい」
ミッションの踊り場に向かう男を見送った二人は、声を潜めてPC画面に語りかける。
スマホに愚痴りながら薄暗い廊下を歩く男には、悪巧みを知る術が無かった。
「リスナーのみんな……実はコレ、ドッキリ企画なんだ」
「あのバカの無様な姿を拝もうぜ」
「帰りの武臣を助っ人お化けがビックリさせるんだ!」
─悲鳴がないと終われませんわな
─待ってました!
─ジムトレのお二人
─ベンママとワカパパ~♡
─バイク屋のお兄さんもいる!
─マイキーの兄貴じゃん
お化けの仮装をした悪友達が、武臣に続いて踊り場に向かって行った。
***
千咒も春千夜も肝試しだってのに、あっさり終わらせやがって。
千咒はいちいちリアクションがデカくてよかったが、骸骨標本にホネだ~って驚くよりも喜んじまうし。
春千夜は終始グチグチして霊安室の扉を開けてパッと覗いて閉めて帰ってくるし。
こりゃ今回の企画は失敗だな。それもそうだ。別にこの病院は曰くがあって潰れたワケじゃない。
ホームレスや半グレのアジトになっていない、所有者に許可取っての安全な肝試し。
建物だって比較的綺麗なモンで窓も割れていない。まぁ緩急って大事だよな。炎上ノルマは既にこなしている。
適当に冷やかしながら懐中電灯の明かりを頼りに薄緑の廊下を進んでいくと、突き当りの階段に到着する。
溜息を溢して階段を上れば、少し開けた場所が見えてくる。
窓から月の光が入って比較的明るい場所のようだ。あそこに鏡があるのだろう。
ライトの光が撮影の邪魔になりそうなので、一旦消す。
それは大きな姿見だった。一八〇センチあるオレよりデカい。
磨く人間がいないので、ご立派な鏡が白く曇っている。
オレが通った学校にも、こんな鏡があったよなぁ。
少し感傷的な気分になって、鏡に近づくと──
──曇った鏡にオレではない人影が映り込み、咄嗟に息を殺す。
ソイツは看護士のような服を着て、車椅子のようなものを押していた。
顔は分からない。鏡の奥から俺の方へ近づいてくる。
曇っていても、顔が分かるほどに近寄ってきた。そして、その顔を見てオレは安堵する。
「なーんだ、真じゃねぇか! 驚かせンなよ!」
「………」
「鏡に見せたプラバンか? それとも薄型画面?」
「はぁ~~アイツら、オレでドッキリ企画立てやがって」
「武臣…」
「メイクもバッチリじゃねぇか。酷いツラしてら」
「オレ、なくしちまった。エマもじいちゃんも、万次郎も…」
「あ~そういう設定……それで?」
「寂しい。オレのそばにいてくれ、武臣」
「おう、いいぞ」
青白い顔をした真に軽く答える。
適当な返事は照れ隠しだ。尊敬する男に必要とされる。
嬉しかった──たとえ、企画の為に用意された台詞でも。
急に腕に痛みが走って肩が震える。
驚いてスマホを落としてしまった。
視線をやれば、真の手がオレの腕に触れていた。
鏡の中から伸ばされた手は、ゾッとするほど冷たい手だった。
あまりの冷たさに、痛みと勘違いするほど。
そのまま真に手を引かれ、鏡をすり抜ける。
力強く掴まれた腕は振り解けそうもない。
蒸し暑い廊下が、冬の廊下を歩いているように寒くなった。
誰も乗っていない車椅子は置いていくらしい。
躊躇わず暗がりの方へと進んで行く男に疑問が浮かぶ。
もしかして、真の偽物なんじゃないか、と。
「真、どこに…行くんだ」
「分からない。──でも、オレたちなら大丈夫だ」
ぼんやりとした声から、力強い声に変わった。
ああ、やっぱりコイツは真だ。オレが憧れ、追いかけた男。
「そうだな」
いつの間にか、腕の冷たさも身体の震えも消えていた。
「■■■■?」
──鏡の向こうの声は、くぐもっていてよく聞こえなかった。
※※※※
次回から【ドッキリホラー企画したら兄貴が異界に連れ去られた件】が始まる(かもしれない)
オカスレ民、出番だよ。
配信とか知識zeroなので分かりにくかったらすみません(配信機器ヨクワカラナイ)
説明致しますと、廃病院の受付で明司兄妹はノートPCでつべのように配信しています。
ノートPCのカメラからの映像とスマホ映像が同時に流れており、リスナーは両方見ています。
ただ、スマホからはノートPCに映像を送るだけで、PCからの映像やコメントは見ることは出来ません。
ベンケイはホラーが苦手のようですが、仕掛け人として頑張ってもらいました(鬼)
真とワカだけでもよかったのですが、消えた武臣に発狂する真を回収しなければならないので…
最後の「■■■■?」は現世の真が「武臣?」と呟いた声です(音のため■を四文字にしました)
鏡の奥に消えていく武臣の後ろ姿を現世の真がぼんやりと見えたため。
追いかけようにも呼び掛けようにも、武臣は暗闇に消えてしまいました。
常世(鏡)の真は最初のリーパー線に似た平行線の真です。
家族がみんないなくなってしまったのに、自死してなお、家族の元に行けず異界で彷徨っていました。
別に(廃)病院に万次郎が入院していたワケではなく、鏡という境界線が繋がって遭遇してしまった感じです(ふわふわ設定)
彼の声はリスナーには聞き取れません。辛うじて武臣の声は聞き取れますが、会話の内容は分かりません。
武臣がスマホを落とす直前から画面が真っ黒になっていて、何も映っていません。
普段の武臣なら叫び声を上げて逃げ出しそうですが、無意識下で”なくした”記憶があるので手を振り解けない。
真の冷たい体温を冷たいと感じなくなった武臣は、もう戻れないかもしれませんね。