Let me say this 好きだ、と伝えたいのだ、スミスに。あの夜の焼き直しではなく、確かに今ここに、イサミの中にある感情として。
好きだと伝えて、もうどこにも行かないでくれと少しだけ怒って、それから、生きててくれてありがとうと言いたい。
シミュレーションはばっちりだ。イサミはTSの仮想訓練でも常に上位の成績で、コツはなんだと聞かれたらいつも「訓練前に頭の中で何通りも戦闘を繰り返して、後はパターンに当てはめるだけです」と答えていた。どうやらそれは一般的には容易なことではないらしく、それが出来たらこんな苦労しないっての! と何度顔を顰められたことか。けれど出来るものは出来るし、残念ながら出来ない場合の対策は知らない。
それと同じだ。イサミに好きだと告げられたスミスが一体どんな反応をするか、それこそ何通りどころか何百通りも想像した。嬉しいものから悲しいもの、あるいはこちらが唖然とするものまで、これ以上感情に種類はないというほど考え尽くして、スミスに対峙する。
あとは伝えるだけなのだ。口を開いて空気を吸って、横隔膜を動かして電気信号を頭から流すだけ。画面に表示される必殺技の字幕を読み上げるのと難易度はそう変わらない。
――筈なのに。
「どうした、イサミ?」
いざ口にしようとスミスの顔を見るといつも声が出なくなる。イサミを見つめるスミスの顔があまりにも優しくて、愛しいものを見る目をしてくるから。鋼鉄の体から再び肉の体を得たスミスの瞳は青から碧に変わり、スミスとブレイバーン二つの魂でイサミを柔らかく包んでくるから。
お陰で今日も伝えられない。あの夜以来スミスはひと言だって「大好き」だとは口にしていないのに、視線でこれほどまでに語られる。
雄弁に注がれるものがイサミの喉元いっぱいまで埋め尽くして、愛に溺れるイサミは今日も〝言えなかったパターン〟の回数を増やすのだ。