【○○…腹が減った】
夜、パソコンで作業をしている私の脳内に彼が語りかけてくる。
明日までに完成させなければならない課題を前に腹が減ったと語りかけてくる生き物はヴェノムという地球外生命体だ。
隣人であり友人であるエディ・ブロックから仕事の都合で1日コイツを預かって欲しいと頼まれている。
『ごめん、今は手が離せない。後にして』
【さっきもそう言っただろ…もう3時間が経つぞ】
ちらりと時計を観るともう23時を超えていた。
『えっ…うそ…もうこんな時間?』
課題はまだ半分しかいってない…。
この課題を提出しないと単位を落としてしまう…。
そう絶望に浸っていると【こんなに待ってやったんだからそろそろ喰わせろ】とまた彼が私の脳内に語りかけてきた。
疲れきっているせいか呑気に命令口調で話しかけてくる彼に苛立ちを覚え、私も口調を強める。
『課題が終わってないから今日は無理』
【…?!今日は悪党を喰わせるって約束しただろ!!】
腹を立てたのか黒いものが私の背中からにゅっと出てきた。
彼の鋭く白い濁った目は私を睨んでいるように見えた。
『それ私の課題を全部終わらせたらっていう話だったじゃん!でも私まだ課題終わってないしこの時間帯は遅すぎるから今日は無理!』
そう言いながら私は彼の目から逃れるようにパソコンと向き合いカタカタと作業を進める。
後ろで彼が何かを言ってるが私は気にせず課題に取り組んだ。
何を言っても邪魔をしても課題を進める私に諦めたのか彼も何も言わくなって二人の間に沈黙が続いた。
そんな彼の様子が気になってちらりと彼を見ると顔を背いていて私の目には少し落ち込んでいるように見えた。
その姿を見ると私はさっき自分が言ったことや約束を破ったことを思い出し酷い罪悪感に襲われた。
「ヴェノム…さっきはごめん」
酷い罪悪感と沈黙に耐えきれず私は彼に謝った
彼は何も言わず顔を背け続けてる。
『約束破ってごめんなさい…ヴェノムはちゃんと待ってくれたのに私は約束破っちゃってほんとに酷いと思ってる…ごめんなさい』
いくら課題が大事だからとはいえ約束をすっぽかして腹を空かして待っていた彼に私が腹を立てるのは間違っている…
自分に対する恥ずかしさと彼に対する申し訳なさに私は顔を赤らめて俯いてしまった。
【…わかった、悪党はもういい。○○が終わるまで待ってる。その代わり】
【今日はお前を喰わせろ】
「え?どういう…」
顔をあげると彼はもういなかった。
私が何かを言う前に彼は私の体に戻っていったようだ。
*
『終わっ…た!!』
ようやく課題を終わらせた私はパソコンをバタンッと閉じ思いっきり伸びをする。
これで明日は存分に休める…
そう思ったら課題を終わらせた自分を褒めたたえたいと思えた。ふと、時間を見てみるともう深夜2時近くになっていた。
ヴェノムのこともあって急いで作ったつもりだったが思ったより時間がかかってしまったようだ。
【やっと終わったか】
いつの間にか私の背後から彼が顔を出していた彼に驚き私は声を上げる。そんな私をお構い無しに彼は続ける。
【○○、俺は待ってやったぞ…そろそろお前を喰わせろ】
私を食べたいという彼に少し怖気がつく。
『喰わせろって…私の何を食べるつもり?脳みそ?肝臓?後でちゃんと治してくれるよね?』
彼のことだからきっと私の臓器を食べるつもりだろうと思っていたが、彼は何故かやれやれといった表情を浮かべている。
その表情に疑問に思っていると彼の触手が私の腕に絡みつき私を何処かへ引っ張っていく。
『えっ…まって…何?!』
抵抗する間もなくドサッと私はベッドに投げ出された。何するの!っと振り返ると彼の顔は私の顔のすぐ近くまで来ていた。唇があと数cmでくっつきそうな距離だった。
あまりの近さに思わず私の胸がどきっと高鳴った
『ちょ…近い!』
【○○、顔が赤くなってる】
彼の言葉に私ははっとし思わず手で顔を隠そうとするが彼の黒い触手がそれを邪魔して私の紅く染った顔は彼の前に晒される。ますます熱くなる私の顔を彼は満足そうにじっと見つめている。
彼の触手が私の頬をするりと撫で【可愛い…】と独り言のように呟く彼の言葉はさらに私の胸を高鳴らせた。さっきまで喧嘩して私を喰わせろと言った彼は私に甘い言葉を発し今も私の頬を優しく撫でている。彼の行動は理解出来ない…でも私はこの瞬間が嫌じゃなくむしろ心地よかった。
私の頬を撫でていた触手が止まり目を細めた彼の顔が近づいてくる。
キスされる…
そう思って目を閉じかけたが私は彼の口を自分の手で抑えキスを拒否した。口を塞がれた彼は不満そうな顔をしていた。でも、その前にまだ聞かなきゃいけないことがある…
『…待ってヴェノム。私のことを食べるんじゃなかったの?なのに、なんでこんなこと…』
【もう食べてるぞ】
へ?と思わず間抜けな声を出してしまった。
いつの間にか私の手は彼の口から離れていた。
【フェネチルアミン。お前の脳から出ている脳内物質だ。今それを味わってるところだ。】
フェネチルアミンはヴェノムの好物だとエディが教えてくれたから知っている。
でもなんで今になって…とますます私は頭は?になる。
【フェネチルアミンは恋をすると分泌されるというのを聞いたことがある。つまり○○がどきどきしたら俺の腹は満たされるということだ。まさか知らなかったのか?】
?になってた私に気づいたのか彼はそう答えた。
知らなかった…
どおりでさっきから距離が近かったわけだと思ったし私を喰わせろという彼の言葉も理解した。それに彼の言葉を聞けば私が彼にどきどきしていたということまでバレている。
『別に…どきどきしてないし…』
あまりの恥ずかしさに思わず嘘をついてしまった。共生者だから隠し事は出来ないはずなのになぜ嘘をついてしまったのか…
私がそう言うと彼の触手が私の胸の辺りをさすってきた。
『えっ…ちょ…ヴェノム?!』
抵抗しようとしたが私の腕は彼の触手に絡められ動くことを許されなかった。
私の胸の上に彼が触手を押し当てる。
【…どきどきしてる】
とっくに知っているはずの彼はご自慢の牙を見せてにやりと笑う。
逃げ場のない私はとうとう恥ずかしさに耐えれず下を俯いてしまった。
【照れてる…可愛いな】
『…っ』
私の耳横で彼が語りけてくる。
彼の低い声に私はビクッと体を震わせる。
私の鼓動は収まるどころかますます早くなるばかりだ。
○○…と私を呼び彼は私を見つめる。
【俺は○○が欲しい。○○が痛がるようなことはしない。】
彼の触手が今度は私の体に巻きついてもう一度私の頬に触れる。
【それでもいいか?】
彼は私の目をじっと見つめる。
喧嘩していた時の目とは違い今彼の目には愛おしさが込めらている…そんな気がした。
きっと私はこれから彼に沢山どきどきさせられる。
それは優しくとても刺激的なことになるだろう。
それでも私は1日腹を空かせて待ってくれた彼に何かを満たしてあげたい…そう思った。
それに私は彼が好き…だから彼となら嫌じゃない…
私は紅く染った頬でこくりと頷いた。
彼は私が今までに見た事がないくらい嬉しそうな顔をし私を引き寄せ優しくキスをした。
その瞬間私の心臓が早鐘を打ち私の中に彼の好物が分泌された。