秋の星見「星見?にござるか?」
「That’s right. アンタ寺に掛かってる星見曼荼羅なんざ見たことねぇか?『上古の聖人、仰ぎて天文を見、伏して地理を知る』てやつだ」
昏れなずむ夜長月を過ぎた秋の夕刻。
奥州伊達邸で、主と夕餉を共にしていた幸村は『見たことがない』と首を振る。
「今夜は朔日で月がねぇ。雲もねぇし星見にゃ打ってつけだ。団子にあったかい甘酒も作ってやる。夜のピクニックと洒落込もうぜ」
「政宗殿の、団子に、甘酒…!」
「あぁ。だから早く飯をすましちまおう」
たちまち目を輝かせ、白飯を掻き込み始めた情人に、竜は瞳を細め、己れも茶碗を持ち上げた。
目指すは米沢裏山のてっぺんに聳える大きな桜の木。春には何度となく訪れた花見で、よく見知った道である。
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