はこのなかみ××××
名前を呼ばれ顔を見た。
虚な顔をした母は××××を見ずにエーテルに帰りたいと語った。あの子のところへ行きたいと願った。
ぶつぶつと呟く母の口に水を含ませる。母がまともではなくなってからどれ程の月日が経ったのだろうか。水を与え、食物を与え、排泄物を処理し、身体をふく。日に日に細くなり、骨と皮が喋っているようだった。母はひたすらに死を願っていた。これが××××の世界だった。
師と出会い、旅をして、多くの人と出会う。
彼らは××××に語りかけた。
時には笑い、時には怒り、そして悲しみながら。
お前はもう自由だよ。何かやりたいことはないか。何か欲しいものはないか。縛るものなんてないんだ。好きに生きていいんだよ。
××××に語りかける者が増える度分かったことがある。
ああ、何もない。
______
「ロロロくんナイス!」
名前を呼ばれ顔を見た。
宝石みたいな双眼がこちらを見ている。
光の当たり具合によってきらきらと輝く瞳を、ぼくは眺めた。すると、彼は頭上にちょこんとついてる二つの耳と長いしっぽを揺らして抱きついてくる。頭をそっと撫でると宝石は細くなり、より強く抱きしめられる。
きれい。かわいい。たのしい。うれしい。
何もないと思っていたぼくの中に宝石が一つずつ増えていく。全て彼がくれたものだ。
しぐまるくんは自信が宝石みたいに光っている。
あっちへふらふら、こっちへふらふら、みんなに笑顔を振りまく。きみにとってその宝石は、石ころみたいにそこらへんにあるものだ。でも、ぼくにはちがう。何もないぼくを満たしてくれるたったひとつの宝物だから。
その価値が分からない奴に宝石をあげる必要なんてない。価値が分からないものはいなくなればいいのに。あたりまえみたいに彼の側に近寄ってくる。乞食みたいに。ああ、腹立たしい。
僕の中に宝石が増えるたび、
僕の中に衝動が増える。
きみの笑顔も怒りも悲しみも全部全部ぼくだけのものにしてしまいたい。衝動が、衝動が、ぼくが書き換えられるほどの強い衝動。
いっそのこと壊しそうか?
それがいい。全てなくなれば、また僕は何もなくなる。それが一番良い。
僕を抱きしめる彼の頸動脈を触る。油断している今ならすぐに終わるだろう。
「ロロロくん!」
「………なに?」
「なんでもない!」
彼はそういって僕の胸に頭を擦り付けた。
ああ、
ああぁ、
気持ちが悪い、吐きそうだ、
ぼくは、これを壊せない。