ハッピードリームス・ウェディング「すごく似合ってるよテラくん」
白くて薄いヴェールを鏡越しの自分に被せる。
ふわっとした裾には白い糸で刺繍が施されていて、シンプルだけど上品さが漂っている。
その繊細でシンプルなデザインが宝石のように華やかな彼の容姿をいっそう引き立てていた。
流石僕、僕がデザインしただけあって本当によく似合っている。
まあ僕であればどんなデザインでも似合うし百均だろうと高級品だろうと等しく似合ってしまうんだけどね!
鏡の中のテラくんと目が合った。
カーテンから差し込む光でヴェールの表面がキラキラと光り、彼を彩る。
長い睫毛は瞬きをするたびに影を落とし、宝石のような瞳はまるで吸い込まれてしまいそうなほど透き通っている。
薄い唇はほんのりと桃色がかっており、思わず触れたくなってしまうくらい魅力的である。
この世に存在するありとあらゆるものを凌駕する美しさに僕はうっとりとした。
まるで、芸術作品のような完成された美だ。
「綺麗だよテラくん……!」
僕は鏡越しにテラくんにキスを落とした。
まるで結婚式だ。
「……鏡越しじゃなくて、直接君に触れられたらな……」
なんて……僕はずっと僕の傍にいるんだからそれで充分なはずだけど。
でも君に直接キスが出来たら、直接触れられたらなんて……。
「……できるよ」
「えっ?」
鏡の向こうの僕がこちらを見て、優しく微笑む。
「わっ!」
彼はテラの手を引くと、テラは鏡の中へと引き込まれていった。
チカチカと虹色の光が瞬き、目の前の景色が一瞬にして切り替わる。
そこは、先程までいたはずの自室ではなく、どこかの教会だった。
驚いて周りをきょろきょろと見回していると、ヴェールを付けた僕がこちらを見つめて話しかける。
「テラくんごめんね。驚かせちゃったね」
「ここはどこ?」
「大丈夫、すぐにわかるよ」
そう言って僕が手を伸ばすと、目の前に大きな扉が現れる。
ギィッと音を立てて扉が開かれる。
そこは赤色の絨毯と大きなステンドグラス、天井からは眩いばかりのシャンデリアが輝いている。
目の前には純白のウェディングドレスに身を包んだ僕の姿があった。
彼は僕に手を差し伸べる。
「ほら、行こう」
「……でも僕準備が……服だって」
そう言って自身の姿を見るとタキシード姿へと変わっていた。
「ふふ……ここなら君の願うことなんだって叶うんだよ」
「そっか……」
それにしてもタキシード姿の僕も綺麗だな。
彼の言葉を聞きながら、僕は彼の手を取った。
噛み締めるように彼の艶やかな肌に触れて、体温を感じる。
この体温すらも愛おしい。国宝だろうか?
そのまま僕たちは赤い絨毯の上を歩き出す。
一歩ずつ、ゆっくりと踏みしめるように。
「僕たち幸せになろうね」
「うん……!」
二人で並んで歩くヴァージンロード。
そこには僕ら二人しかいない。
なんて素晴らしい空間なんだろうか。この静寂も心地良い。
コツ、コツと靴音が響く。
祭壇の前に立つと、神父さんも牧師様もいなかった。
それでも僕たちは自然と向き合い、お互いの顔を見る。
僕は彼のヴェールをめくると、透き通った頬に触れる。僕が僕に口付けをする。
何度も角度を変えて、触れるだけの優しいキスを繰り返す。
目が合う度に桃色の綺麗な瞳に僕の顔が映る。
なんて素晴らしい万華鏡なんだろうか。
お互いの意識が蕩けていく。
「んっ……ふ……ちゅっ」
「ふ……んッむ……テラ……くん」
吐息を漏らしながらもその口付けは次第に深くなっていく。
舌と唾液を絡めて、お互いに求め合うように貪りあう。
甘い味がするような気がした。
ああ、このまま時間が止まればいいのに。
「はぁ……テラくん……だいすき……」
「ふふ……僕も大好きだよ」
僕たちは微笑みあった。
すると、まるで祝福するかのように美しい薔薇が咲き乱れる。
それは一面に広がって、僕らの周りを囲っていく。
そしてその花びらが舞い上がると、僕達の衣装が大好きな黄色に変わっていた。
お色直しをした僕も綺麗だ。
黄色のウェディングドレスとタキシードも個性的でセンスが良い。
「ねえ、もっと……」
「いいよ」
再び唇を重ね合う。
今度は舌を絡ませて、お互いを求め合うような激しいキス。
「ふぅ……っあ、ああっ、テラくん、テラくん好きぃ……ッ」
「僕も好きだよ、愛してる」
僕達は見つめあうと、彼は僕の左手の薬指に指輪を嵌める。
僕の大好きな黄色の宝石がはめ込まれたそれは、まるで彼と僕の愛の結晶のように思えた。
「汝、健康の時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、幸福の時も災いにあうときも、これを愛し敬い慰め助け 永久に節操を守ることを誓いますか?」
「勿論……今までもこれからも」
僕たちは永遠の誓いを交わし、もう一度絨毯を一歩、また一歩と進んでいく。
歩く度に、足元の花々は鮮やかに、より美しく咲いていく。
僕はそんな幻想的な光景に目を奪われていた。
「テラくん、僕に出会えて本当に良かった」
「僕こそ……本当にありがとう」
僕は彼の腕に手を添える。
「これからもずっと一緒にいようね」
「そうだね。大好きだよテラくん」
僕たちは微笑み、うっとりと見つめあった。すると、瞬く間に黄色の光に包まれて、意識が途絶えた。
***
「ハッ!?朝……ってか夢……!?」
テラが目を覚ますと、そこは自室で部屋にはウェディングドレスの図面やらデザイン案が散らばっていた。
あぁ……そういえば会社でウェディング関連の案件があったんた。
それでこんな夢を……。
少し寂しいが、幸せな夢を見れたのだ。日頃の僕の行いが良いからだなと微笑む。「……あれ……?」
自身の指に違和感を覚える。僕、こんな所に指輪付けてたっけ?
寝ぼけ眼で手を確認すると薬指に黄色の石の指輪が嵌っていた。
この宝石はイエローダイアモンドで……このデザインは、あの時の指輪だ。間違いない。
あぁこれはそうなのか……僕は……僕達は……。
鏡の奥の彼がこっちを見てウィンクをする。
鼻の下に生暖かい感覚。
僕は甘い幸福に身を委ねるのであった。