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    @64A521A

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    ワンドロのつもりで書いたら、お題「図書室」ではなく「図書館」で書いていた(笑)

    ※真柳前提で図書館の司書視点(真柳以外の恋愛要素はない)
    ※オリジナルキャラクター苦手な方は注意

     図書館の返却カウンターに、ひときわ目を引く男が現れた。
     洋服越しにもわかる引き締まった体躯、長身で隙のない立ち居振る舞い。身長はおそらく2メートル近くありそうだ。視線を向けずにはいられないほどの存在感に、空気が一瞬だけ変わるのを感じた。
    「返却、お願いいたします」
     低く響く声が、静まり返った空気を柔らかく震わせる。
    「はい、承りました」
     私が本を受け取ると、彼は静かに踵を返して新刊コーナーへと向かっていった。
     手元の返却本の束は綺麗に整えられており、丁寧に扱われていたことが伺える。何気なく一冊を手に取りページをめくった瞬間、ふと目が止まった。
     本の間に何かが挟まれている。
     それを、そっと引き出してみると、それは白檀で作られた栞だった。
     表面には緻密な彫刻が施されており、蓮の花と柳の枝が織りなす模様が滑らかな木の質感と相まって独特の存在感を放っている。その彫刻の下部には、小さく『柳蓮二』と名前が刻まれていた。
     この美しい栞が本来の持ち主の元に戻らないことだけは避けねばならない──そして、私は栞を手に立ち上がり急いでカウンターを出た。
     先ほどの男はまだ新刊コーナーの前で本を手に取っていた。
    「『柳蓮二』さん!」
     栞に記された名前を呼ぶと、彼は手を止め、こちらを振り返った。
     その精悍な顔立ちには、戸惑いの色が浮かんでいる。
    「栞をお忘れです」
     差し出した栞を見た男は、一瞬目を丸くし、それからふっと笑った。
    「ああ、ありがとうございます。まったく…」
     片眉を軽く上げながら、喉の奥でくつくつと笑う。
     堀の深い顔立ちが笑顔を浮かべると、まさに「益荒男」という言葉がぴたりと当てはまる。
     力強さと男らしさが前面に出るその佇まいは、ただ立っているだけなのに周囲を圧倒するようだ。
     正直に言うと、『柳蓮二』という名は、そんな彼にはあまりにも柔らかで、優美で……似合わない。
     栞を手渡しながら、その考えがどうしても頭の中に浮かび、気づけば口を滑らせていた。
    「名前…」
    「名前?」
     男に問い返される。釣り目がちな視線にじっと見られると、少し居心地が悪くなり、私は慌てて言葉を繕った。
    「…あ、えっと、『柳蓮二』って、綺麗なお名前ですね」
     そう言うと、彼は少し目を細めた。
     そして、口元に浮かぶ笑みを深くする。
    「俺もそう思います」
    「その栞も、もしかして、あなたのお名前に合わせた意匠なのでしょうか」
     男の瞳がわずかに揺れる。
     そして、少しはにかんだ。
    「この栞は、確かに『柳蓮二』の名にあわせたものですが――

    ──『柳蓮二』は俺の名ではないのです」

     一瞬、言葉の意味が掴めず、私は首を傾げた。
     男は苦笑しながら説明を続ける。
    「今日は『柳蓮二』の代理で返却に来ました」
     私は少し考えてから納得し、頷いた。
    「ああ!あなたではなくご友人の!!お優しいんですね。」
     何気なく口にしたその言葉に、男は静かに首を振る。
     そして、どこか誇らしげに言葉を続けた。

    「柳蓮二は、俺の恋人です」

     その瞬間、私の胸の内に甘美な衝撃が走った。
     ここ最近読んだどんな恋愛小説よりも、ずっと強く心が震えた。
     堂々とした語り口には、迷いも照れも微塵もない。
     ただ静かで確かな愛情が溢れている。

     「柳蓮二」という人は、それほどまでにこの男に愛されているのだと、心から感じた。そう感じた瞬間、胸の奥が静かに温まり、優しい気持ちが広がっていくのを止められなかった。
    「持ってきてくださって、ありがとうございます。きちんと蓮二に渡します」
     少し言葉を交わした後、彼は静かに笑い、足早に図書館を後にした。

     冷たい冬の日の図書館に、一筋の柔らかな光が差し込む。薄く曇った窓ガラス越しにその光は静かに室内を満たし、空気のひんやりとした感触と対照的に、穏やかな温かさを感じさせる。
     彼の背中がその光を受けて、まるでその一部のように輝いていた。
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