リップバームの続きの宿鹿.
キスはセックスを始める合図に過ぎない。
ただ唇を重ねるなんて生易しい感触は一瞬で、次の瞬間には嚙み付くように口を塞がれ、長くて厚い舌を内側へねじ込まれたと思えば、息継ぎの隙間さえ見つからないまま咥内を蹂躙される。酸欠の苦しさ、肉に食い込む犬歯の痛み。それらに勝る、性的な興奮。
もちろん、一方的にやられてばかりは性に合わず、こっちの粘膜を舐って遊ぶ舌に歯を立ててやることもある。すると、機嫌を損ねるどころか楽しそうに喉を鳴らした宿儺は、さらに奥へと舌を挿入してくるのだ。
高めて、煽って、より深い悦楽へと溺れていく為の行為。
自分たちのキスにこもっているのは肉欲だけで、感情なんてこもっていない。
──はずだったのだが。
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