『水着』「ねぇ!!!!!お兄ちゃん!!!!!」
物凄い声量と共にドアが壊れそうな勢いで部屋に入ってきた妹に、旬は椅子から転げ落ちそうになった。
「ど、どうした葵…」
「海!!!海行こ!!!」
「えぇ……俺今日ダンジョンに」
「このダンジョン馬鹿!諸菱さん連れて行くよ!!!」
と行きたく無さそうな旬の腕を無理やり引っ張り、海へと向かった。
――――――――――
「葵さん、僕も誘ってくれてありがとうございます!」
「おかげでお兄ちゃんの水着も調達出来たから、こちらこそ!」
といつの間に仲良くなった二人に溜息をつく。
あの後そのまま海へ直行かと思いきや、別のショッピングモールに連れていかれ、高速で着せ替えされ、諸菱くんの懐からお金が出された。
「お兄ちゃんが選ぶと凄い事になりそうだから」
と言うのでまかせっきりにしたのはいいが……
「浮かれすぎてないか」
「全然?」
「カッコイイです、水篠さん!!!」
「諸菱くんは黙ってて」
アヒルの浮き輪を腰に付けた諸菱には言われたくなかった。
ただ前がかなり開いているので日焼けしないか心配だ。
「お兄ちゃん、日焼け止め塗る?」
「うん、貰う」
「水篠さん、僕が塗りましょうか」
葵から旬へ、そして諸菱へと手に渡る。
持ってきたパラソルを刺して、ビーチにシートをひいていると、突然何か割れる音がした。
「え?」
振り向くとそこには同じく水着姿の最上ハンターと美濃部ハンター、そして白川ハンターが立っていた。日焼け対策で、美濃部と最上は薄い長袖を着ている。ちなみに割れた音は、最上が片手に持っていたワインだった。ついでにメガネも割れている気がする。
「は……」
最上は声を出したが、旬には全く聞こえず近づいて何て言ったのかを聞きなおす。
「ハレンチです!!!!」
「声デカ」
思わず旬もツッコミを入れたくなるほどの声量。葵といい勝負が出来そうだ。
「前隠してください!!!」
「日焼け止め塗るので…」
違うそうじゃないと言わんばかりに顔を両手で覆いながら唸る。後ろに居た美濃部も苦笑いしながら自分の羽織っていた長袖を脱ぐ。
「俺のを貸しましょうか?」
「剛、お前がハレンチだ」
「え??」
一体なんのやり取りを見せられているのか。
旬は無視してシートに横になると、サササッと諸菱は日焼け止めクリームを持って隣に座る。
「塗ってもいいですか?」
「うん」
手の上にクリームを落とし、平に伸ばしてから旬の背中に塗りたくる。段々と旬の体がヌルヌルになるのを見ていた最上はまたもや物凄い声量で叫んだ。
「羨ましいですね!!!!」
「煩いです…最上ハンター…」
ふふんっと誇らしげに最上に対してドヤ顔を決める諸菱は今度は旬の前の部分を塗る。
「はわ……」
初めて触る腹筋に思わず諸菱は声に出る。
「はわわ……」
と、諸菱は途中で気絶してしまい、中途半端な塗り具合になってしまった。
「えぇ、僕に任せてください、塗るのは得意なんです」
「誰でも出来ると思いますけど……まあ、お願いします。」
気絶している諸菱から日焼け止めを奪い、先に旬の体にクリームを落とす。
「ん……」
「………」
冷たかったのか、変な声を出す旬に思わず最上は息を飲む。そのまま両手を使ってクリームを広げると、旬の乳首が指に当たる。
「あ……」
「ッ……」
とそこで何かが最上の顔にぶっかかる。シュワシュワと音を立てて、液体は黒かった。
「ごめんなさーい、コーラ爆発しちゃって」
と全く謝罪の気持ちが籠っていない葵のセリフに、最上は固まる。
一部をパラソルの外から見守っていた美濃部と白川は苦笑いしながらクチパクで「あきらめろ」と最上に言った。
その間に葵は旬の腕を引っ張る。
「ほら、早く、海!」
と旬は海の方へと引っ張られて行った―――。