『E級』自分の家族は亡くなり、何もかも失ったというのに、未だに生きている。命をかけてゲートに潜る必要も無くなった。
覚醒していない人間は目の前で感染し、頭を失う。自我の無いモンスターは共食いを始めたりもする。
旬は覚醒者の中で最弱で、瓦礫の山に隠れて、息を潜めた。
「………っ」
声を震わせながら、目を瞑って涙を流す。這いずる音が消えると、旬は瓦礫から飛び出し、違う場所へ移るために全力で走る。その音でモンスターは旬の方へと向き直し、猛スピードで這いずってくる。
「くそっ……!」
後ろを向いていてはスピードが落ちる。旬は只管に前を向いて走っていると、見覚えのある男が不思議な姿で立っていた。
「も、最上さん!?」
「―――――」
その声に反応した最上は、振り向けば汚染されたモンスターに追われている旬が、必死にこちらに向かって走ってきていた。すぐに炎で燃やし尽くした後、最上は旬に抱き着いた。
「うわっ」
「………無事だったんですね」
「ひゃ!?」
抱き着かれた次は首にマスク越しに置かれ吐息と混じりながら最上が喋ると、それに反応して旬は飛び跳ねる。
「旬……旬……」
「ど、どうしたんですか……」
よく見ると目元は隈、頬は少しやつれていいおり、顔色も悪い。
こんな最上さんの姿を見たのは初めてだ。
「……Fブロック、生存者確認しました」
『直ちに帰還を――』
無線の相手が言い切るまでに最上は電源を切った。
「あの、最上さん…その服とマスクは……むっ!」
話している最中に突然口周りにマスクを付けられ、顔は至近距離にあり、旬はドキドキしていた。
顔が近いせいか、最上の毛先が若干焦げているのが見える。
コツンとマスク同士が当たり、旬は最上から目が離せなくなり、頬を染めた。最上は不気味な程に優しく微笑み
「――――行きましょうか」
「え、あ、はい」
旬は最上の手を握り、最上も握り返す。
その瞳が濁っている事など知らずに――――。
IF end