旬「毎回俺の家に誰かいる」鍋パ ぐつぐつとフタの中から沸騰した音が聞こえてくる。穴からは煙が立ち、隙間から溢れそうなほどの熱湯が、鍋の中に満ちている。
フタを開ければ、海鮮の匂いと共に、中で浮かぶエビやアサリなどが入っており、野菜は春菊や白菜が顔を出していた
「水篠さん、鍋出来ましたよ!」
「すぐ行く」
旬を待つために、先にコタツの中に入って重ねられていた食器をそれぞれに分ける。
台所から出てきた旬は解凍した肉を更に盛り付け、それぞれ座る場所の近くに置いた後、次に持ってきたのは更に乗り切ってないタラバガニが登場した。
「僕、こういう庶民的な感じで食べた事ないんですよね、楽しみです!」
「………ははは」
苦笑いしつつも、諸菱の嬉しそうな様子に旬の口端が僅かに上がる。
準備ができ、エプロンを脱いでからこたつの中へと入る。
「へへへ…こうやって平和に年越しが出来るのも、水篠さんのおかげですね」
「大げさだな…」
「大げさじゃないです!家族と食事に行くことはあっても…こんなに楽しくは無かったです」
「…諸菱君」
「なので、命一杯楽しませて頂きます」
パンッと両手を叩けばなにやらこたつから頭が出てきた。
「いやぁ、お邪魔してるよ水篠ハンター」
「っは!?」
なんと出てきたのは死神ギルドの黒須圭介で、体はまだこたつの中にある。
おかしい、明らかにサイズが小さいこたつなのに何故違和感が無かったのか。
そしてそれを追いかけるように、今度は諸菱の後ろにある襖が勢いよく開かれた。
「いやぁ、美味しそうですねぇ…僕も失礼しても?」
「は…?」
メガネをクイッと上げながら移動し、こたつから頭を出していた黒須を蹴とばしつつ、こたつの中へと押し込み座る。
「ちょっ、いででで!!」
「おっとすみません、よく見てませんでした」
「見えてんだろテメッ…!」
旬の隣で席の奪い合いが始まろうとしたその時、窓から白川が入ってきた。
「なんで……?」
切実な疑問が口に出てしまうほどに旬は困惑していた。
「おぉ、タラバガニか…俺も何か持って来ればよかったな」
対向に座った白川に続いて、やっと正面玄関から美濃部が入ってくる。
「お酒持ってきましたよー、今日は鍋パと聞いて…!」
お酒を大量に持ってきた美濃部はこたつの上に置く。
流石にもう来ることはないだろうと、思っていると………。
「ミスターミズシノ」
物凄い勢いで壁をぶち破ってきたトーマスに、旬は固まる。
「おぉ、これが鍋パか!それにしては小さ過ぎるな…!!」
「すみません、水篠さん、最後は人選間違えたかもしれないです」
「何か言ったか?」
「いえなにも」
目線を避けるが、国家権力のハンターの威圧には勝てず、結局涙目になりながらトーマスの質問攻めにあう諸菱に、旬は怒りのあまりに拳を握り締めた。
「ミ、ミズシノ…話せばわかる!」
「話なんていらない、人の家の壁を壊すな」
拳を振り上げれば、トーマスの体は天高く舞い上がり何処かへと飛んでいく。途中「アメイジング!」と叫んでいたような気がするが、気のせいだろう。
結局トーマス以外の人達と鍋パをした後、旬は一週間口を利かなかった。