『拠り所ナシ』 諸菱のギルドマスターへの条件クリアの為の誘いを断り、旬は毎日欠かさず、デイリーとダンジョンを熟す。
夜中に帰ってきては、妹の葵の顔を少し見てからまたダンジョンへ潜る。
システムからの勧誘が無ければ、弱いダンジョンに潜ってボスを倒す。
もちろんバレないようにの話だが…。
気づけば命の神水の生成を手に入れ、求めていた再開の為に母にそれを飲ませる。
「旬…? 旬なの?」
「――――うん」
やっと掴めた本来の家族の形に戻ったはずなのに。
「ありがとう、旬」
「うん」
涙は出なかった。
「水篠ハンター、いくら一人で戦える力をお持ちでも、少し攻略数が異常では?」
「いいえ、まだ出来ます」
「その”まだ”は貴方が気づいていないだけです。少しお休みになられては?」
「俺がやらなきゃ、誰がやるんですか犬飼課長」
「……顔色が良くありません、眠れていますか?」
犬飼にそう言われると、ドキリと心臓が跳ねる。最近上手く寝付けないのは、ダンジョンの潜りすぎだろうか。
傷はデイリークエストで治るものの、目の下に出来た隈は改善されない。
「……仮眠室、借りてもいいですか」
「家まで送りましょうか」
「帰りたく、ありません…」
「そうですか、仮眠室はあちらです。…僕が寄せ付けないように見張っておきましょう」
指された場所へよろよろと歩き、硬いベッドに身を投げ出す。
目を瞑れば眠気が襲い、夢の中へと引きずり込まれる。
「可哀想に」
そんな言葉が降りかかる。
「誰もお前の事なんて、どうでもいいんだよ」
覗いてくる弱い頃の俺が、嘲笑う。
「お前が寝てる間にまた一人死んだ。」
「っ……」
体をバネの様に起き上がらせ、頭を抱える。
耳を塞いでも聞こえてくる俺の声は呪いのようだった。
「ヒーローごっこは、もう終わり?」
「違うッ…」
「――――お前は弱い、誰も助けれない、家族さえ。」
「違う違う違うッ」
「俺が助けてあげようか」
「ちが――――――……ぇ……」
「お前は力を 俺は心を。」
感触は無い。胸に手をおかれ、優しく撫でられる。ただひやりと、冷たい空気が流れた。
「二人で補えば、壊れないお前が出来上がる…いいとは思わない?」
「っ………」
ニヤリと笑うもう一人の俺は、俺の目を手で覆う。目の前は暗くなり、冷たい水をかぶったような感覚だけが残る。
手足も、息を吸う感覚もいつの間にか消えている。
「俺に頂戴、旬」